“芥見下々が描く『呪術廻戦』”はもう読めないのか? 最終巻「あとがき」のメッセージを考察
2024年を象徴する漫画作品といえば、『呪術廻戦』を挙げる人も多いだろう。12月25日にはコミックス第29巻、ならびに最終30巻が同時発売され、あらためてファンに感動を広げた。
12月18日に最終16巻が発売された『【推しの子】』のエンディングに賛否の議論が巻き起こっているように、人気作は「幕の下ろし方」に一定数、不満の声が聞こえることも少なくないが、漫画編集者で評論家の島田一志氏は、「『呪術廻戦』は圧巻のエンディングを迎えたと言っていいと思う」と評価する。
「最終回の1話前(第270話)のタイトルが<夢の終わり>と判明したとき、SNSでファンがざわつきました。芥見下々の作家性を考えると、夢オチのバッドエンドもあり得るのではという不安が広がり、ファンはモヤモヤした1週間を過ごしたわけです。吉野順平や天内理子のエピソードを思うと、後味の悪いエンディングになることは十分に考えられた。しかし、蓋を開けてみれば、主人公・虎杖悠仁たちの成長と未来が描かれた、ハッピーエンドと言っていい内容でした。五条悟のファンは、彼が復活することに期待したかもしれませんが、『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎がそうであったように、虎杖たちに思いを受け継がせ、成長を促したメンターとして十分な役割を果たしたと言えるでしょう。
実際の結末を見て、私は“芥見下々は少年漫画家なんだ”とあらためて感じました。つまり、よりショッキングな終わり方にも、後味の悪いエンディングにもできたなかで、それをしなかったのは、少年漫画は本来、どういう年齢のどういう人たちが読むのか、ということを芥見下々が意識していたからだろうと。素晴らしいと思います」
最終巻の発売と同時に話題になった「あとがき」にも、その真摯な姿勢が表れている。過去には、「八百屋は野菜のプロなので、今後漫画でミスしても許してね」「みんなの器が鬼デシリットルなところ見せてくれよな」と読者を煽るような文章も(読者の捉え違いも含めて)話題になった芥見下々が、本心を吐露しつつ、反省と各方面への感謝を綴っているのだ。そのなかで、多くのファンが注目したのは「私が描く『呪術廻戦』はここで終わりです」という一言だった。
「そのまま受け取るならば、“自分ではもう描かないが、今後、アニメやノベライズなどメディア展開はまだまだ続くのでよろしくね”というメッセージですが、少し飛躍して考えると、すでに別の漫画家が描くスピンオフ企画が進行していることを匂わせているとも受け取れます。また、あらためて最終巻を読むと、大きな物語を描き切ったという感覚は伝わってきますし、単純に“ひとまず終わり”という意味かもしれない。作家ではなく、作品にブランドイメージがつくのがジャンプのいいところだ、と芥見さん自身が捉えているように、次の作品が必ずしもヒットするとは限りませんが、個人的にもひとまず『呪術廻戦』から離れて、新しい物語を描いてほしい、という思いはあります」
一方で、『呪術廻戦』の続きを読みたい、というファンに対して、島田氏は「十分に可能性がある」と語る。その根拠は、同作の構造にあるという。
「『呪術廻戦』は、もともと『ジャンプGIGA』で2017年に短期連載された『東京都立呪術高等専門学校』(呪術廻戦 0)をプロトタイプとしており、その設定は完全に活かしたまま、主人公を乙骨憂太から虎杖悠仁に変更して、連載をスタートしました。つまり本誌デビュー前から『呪術高専』というハコがあれば主人公を変えても成立する仕組みが出来上がっており、またいつでも別の物語を始めることが可能なんです。古くは『シャーロック・ホームズ』シリーズも『鉄腕アトム』も、一度は主人公が死んで終わっていますが、ファンの声に応えて復活した経緯があります。いつでも復活できる枠組みができているだけに、続編を希望する人は、根気よくその思いを訴え続けると、いつか報われるかもしれません」
アニメの第3期も制作が決定しており、メディアミックスのなかで、しばらくはアクティブな状態が続いていくだろう『呪術廻戦』。その中で続編やスピンオフのニュースは出てくるのか、あるいは読み切りや新作が話題になるのか。大きな物語を少年漫画らしく、晴れやかに締めくくった鬼才・芥見下々の動向は、2025年も漫画ファンの関心事になりそうだ。