アニメ化決定で注目! 江戸時代から平成まで戦い続ける大河ファンタジー『鬼人幻燈抄』誕生の背景とは?

『鬼人幻燈抄』誕生の背景

世代を超えて繋がる思いというシチュエーションが個人的には大好き

『鬼人幻燈抄 明治編 夏宵蜃気楼』(双葉社)

ーーさて、物語では鬼人となった甚夜が江戸時代から明治時代、大正時代、昭和時代を経て令和まで生きながら、それぞれの時代でさまざまな人と出会っていく壮大なものとっています。書いていく上で大変だった時代とか、ここは出したかったという場所はありますか。

中西:「明治編」は三代目・秋津染吾郎という京都出身の付喪神使いを出したので、京都を舞台にしました。オカルト物を描いているなら、やはり京都は外せないということです。「大正編」は映画館の話を描きたかったところがありますね。街の小さな映画館が激動の時代を経ながら当時の趣を持ったまま残っている。そうしたスポットをひとつ作りたいと思って登場させました。

ーー「暦座キネマ館」ですね。昭和を経て平成まで残って「平成編」にもしっかりと出て来ます。

中西:あとは花街でしょうか。吉行淳之介さんの「原色の街」という短編が好きで、ああいった世界観を書いてみたいと思ったところが「昭和編」には出ています。ただ、花街の話は広げすぎると結構なまぐさい話も書かなくてはいけなくなるので、早めにまとめたところはあります。

ーー「昭和編」自体が他の「江戸編」や「明治編」「平成編」に比べると、単行本1冊だけで終了と短いものになっています。時代的には元年から64年まであって1番長いにも関わらず、物語的には1番短かったのが意外でした。

中西:昭和を描くと戦争の話が食い込んでくる可能性があるんです。そこで主人公が戦争に対して自分の考えを口に出すことが、ライトノベル的に考えてどうなんだろうと思ったところがあります。甚夜はとてつもない力を持っています。その彼が、戦争の中で敵となった国に攻撃的な感情を向けるのを描くのは難しいので、自分はバケモノだから戦争には関わらないでいようということにして、戦後のことだけを描きました。

ーー甚夜が戦後の高度成長期とか1980年代後半のバブルの頃とかをどのように見ていて、どのように生きていたのかはちょっと知りたい気がしました。ディスコでガンガンと踊っている甚夜とか。

中西:それはちょっと楽しそうですね。新しい文化に触れて戸惑う姿とかは楽しいかもしれないです。

ーー甚夜は、長い時間をたったひとりで生き続けている割に、孤独に倦み疲れているようなところがあまり感じられないキャラクターで不思議でした。

中西:そうですね。むしろ長く生きていたから出会えた人たちが沢山いて、だから離別のようなこともあるけれど、それほど悪くないといった感じで前向きにとらえているイメージです。昔は食べられなかった夏場の氷が今は普通に楽しめるようになって、現代ってすごいと思っているとか、お餅が好物で昔は正月についたものの残りを大切に食べていたのが、今はお小遣いで買ってレンジでチンすれば食べられるとか。そうした便利さを楽しんでいるところがあります。

ーー長命種と短命種の物語は、萩尾望都先生の『ポーの一族』でも山田鐘人先生とアベツカサ先生の『葬送のフリーレン』でも、永遠を生きる存在と普通の寿命しかない人間とのすれ違いのような部分が描かれて、残されることになる長命種の気持ちに響くような展開になりがちですが、本作は少し違います。

中西:長命種ものは沢山ありますが、この作品ではあまり参考にしていません。どちらかというと戦地で書かれた手紙が、戦後に時間をおいて届いたことで浮かぶ感慨のようなものを描きたいと思っていたところがあります。戦場で亡くなった方の手紙が巡り巡って50年後に届いて、50年前にその人がどのようなことが考えていたのかを知る。そうした、世代を超えて繋がる思いというシチュエーションが個人的には大好きなんです。『フリーレン』について言うなら、既に亡くなってしまった勇者の言葉が、後になって効いてくるところがあって好きですね。

ーー時間を繋ぐという意味では、江戸編か明治編にかけて登場する三代目・秋津染吾郎の末裔に当たる十代目・秋津染吾郎が平成編に登場しますね。甚夜と同じ学校に通っていて、剣士としても大活躍します。

中西:秋津染吾郎は、何代にも渡って遺言を伝えていくキャラクターというものを出したくて書いたところがありますね。もともと書籍化のようなことはまったく意識しないで趣味で始めた作品なので、自分が好きなシチュエーションがこれでもかと盛り込んであります。十代目が活躍するのは、秋津染吾郎という名前が出てくる期間が長いこともあって、思い入れが強くなっていたところがあります。

都市伝説がテーマになった短編連作集も

スピンオフ短編集『夏樹の都市伝説集 鬼人幻燈抄 番外編』(双葉社)

ーーコミカライズやアニメ化が「平成編」まで続いて、絵になって動いたり喋ったりしているところを見たいです。少し話が変わりますが、もともとライトノベルがお好きだったのですか。

中西:そうですね。上遠野先生は大好きですが、他にオカルト的なものも結構好きで、メフィスト賞を『QED 百人一首の呪』で受賞された高田崇史先生のシリーズを読みふけっていました。何か歴史の謎に対して、現代から独特の視点で新たな解釈をしていって解き明かすスタイルがとても好きで、学生時代にものすごくハマりました。こうしたミステリー的なものは読んでいる分には楽しいんですが、自分でも書くかというと自分で謎を作っていくのは難しいので絶対無理です。

ーーこれから書いてみたいテーマは何かありますか。

中西:幽霊との交流物といったものが好きなので、そうしたオカルトチックな印象が強いものは書いてみたいなと思っています。

ーー『鬼人幻燈抄』シリーズ自体はいかがですか。単行本では完結という形になって、今は文庫での刊行が続いていますが、続編なり新展開のようなことは考えているのでしょうか。

中西:今のところ特に新しくは着手していません。今後の流れに任せてみようといったところです。あと、8月28日に「平成編」に出てくる藤堂夏樹というサブキャラクターが主人公になった作品集『夏樹の都市伝説集 鬼人幻燈抄 番外編』を刊行しました。「平成編」を書く前から書いていたもので、「平成編」でネタにした都市伝説がテーマになった短編連作集となっています。

ーー十代目・秋津染吾郎も絡みますか?

中西:それはないです。都市伝説話がよくイラストで美少女化されているようなことがありますよね。それで、どうして美少女になるのだろうということを書き連ねていった話です。

ーー面白そうです。里見有先生の作画によるコミカライズも続いていますね。

中西:はい。アニメ化にも驚きましたがコミカライズの時も正直驚きました。自分が書いていたものに絵が付く。そして動く。そんなことがあるんだって思いました。得がたい経験をさせていただいています。

ーー読まれていかがでしたか?

中西:良かったです! 実は三代目・秋津染吾郎が漫画に登場した時、読者の方から自分が想像したままのキャラクターが出て来たといったメールが送られてきて、自分も同じ感覚で解釈が一致したところがありました。凄く嬉しかったですね。

ーーこちらも続いていって十代目も想像していたようなキャラクターが描かれて欲しいですね。最後に読者の方にメッセージをお願いします。

中西:大きいことは何も言えませんので、お目に触れた時に少しでも楽しんでいただければと思います。特に年齢層も限定していません。基本的には異能バトル物として考えていたところがあるので、10代や20代のライトノベルの好きな方にも手に取ってもらいたいです。

ーーありがとうございました。

■書籍情報
『夏樹の都市伝説集 鬼人幻燈抄 番外編』
著者:中西モトオ
価格:1,430円
発売日:2024年8月28日
出版社:双葉社

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