ヴィジュアル系は90年代にどのような音楽的進化を遂げたのか? 気鋭のライターが提示する、独自のヴィジュアル系史観

ヴィジュアル系は90年代にどう進化した?

 1月21日に発売された星海社新書『90年代ヴィジュアル系ロック名盤100選』は、ヴィジュアル系という日本が世界に誇るカルチャーが最盛期を迎えた1990年代に、音楽的にどのような幅を持って進化していったかを確認することができる、非常に資料価値の高い内容となっている。

冬将軍『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社)

 本著を執筆した音楽ライターの冬将軍氏は、過去にも同じ星海社新書にて『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』を発表しており、そちらではヴィジュアル系を軸に発展した日本独自のカルチャーについて、独自の視点で解説していた。続く本書では、音楽ジャンルを指す言葉ではないヴィジュアル系という文化の中で独自のスタイルを築いてきた当時のアーティストたちが、いかに個性的な作品をリリースしていたかを再認識することができ、かつヴィジュアル系の枠からははみだしつつもシーンと接点を持っていた周辺アーティストにまでスポットを当てることで、現在のJ-POP / J-ROCKシーンに至るまでの軌跡も知ることができ、あの時代をリアルタイムで通過した私のような者にとってはもちろんのこと、当時を知らない後追い世代にとっても興味深い内容になっているのではないだろうか。

 本著はいわるゆるディスクガイド的な内容を軸にしているのだが、その中身は単にアルバムやそのアーティストの音楽性を解説するだけにとどまらず、各アーティストの成り立ちや当時の時代背景にも触れられており、「1アーティスト1枚」基準で100枚をセレクト。まだヴィジュアル系という名称が一般化していなかった1990年から始まり、X JAPANがシーンを牽引することでLUNA SEAや黒夢、GLAYなどへとつないでいった90年代半ば、そしてヴィジュアル系アーティストの登竜門的な役割を果たしたテレビ番組『Break Out』(テレビ朝日系)を中心にシーンが最盛期を迎えた90年代後半まで、ほぼリリース日に沿った時系列順に並べられており、1990年2月1日発売のBUCK-TICK『悪の華』からスタートしていることも非常に興味深い。この頃は先にも述べたとおり、彼らのようなお化粧をしたバンドに対してヴィジュアル系と呼ぶことはまだなかった時代で、いわば後進たちにおけるルーツ的アーティストが1980年代後半から始まったバンドブームの延長で、日本の音楽シーンを賑わせていたタイミング。COMPLEX(布袋寅泰&吉川晃司)や氷室京介、ZIGGY、聖飢魔IIといった80'sメジャーシーンの猛者たちとともに、ZI:KILLやEX-ANSなどのEXTASY RECORDS(YOSHIKI主宰のインディーズレーベル)勢が名を連ねているところも面白い。サブスク全盛の今ならこうしたアーティストたちが入り乱れることは至極当たり前のことだが、当時は彼らを並列で語る機会は少なかった(もしくは、無理してまでしようとしなかった)のでは。これもディスクガイド形式だからこそ成し得たことだと言える。

 セレクトされた100枚のアルバムおよび100組のアーティストに対して、「バンドメンバーのソロ作品を選ぶのなら、もっと入れるべきバンドがあったのでは?」「このバンドだったら、あのアルバムじゃないの?」という読者目線の意見は確かにあるはずだ。個人的にも、本著でピックアップされた複数のバンドに影響を与えた存在であるMORRIE(DEAD END、Creature Creature、GODLANDなど)のソロ作品が取り上げられていなかったことは残念だが、すべては著者の選出基準によるものなので、こればかりは仕方ない。だが、マニアックになればなるほど狭い枠の中で語られるがちなヴィジュアル系という文化を広い視野で見つめることで、沢田泰司(TAIJI / ex. X)が参加した時期のLOUDNESSをはじめ、THE MAD CAPSULE MARKETS(当時THE MAD CAPSULE MARKET'S)やCOALTER OF THE DEEPERS、ZEPPET STOREなどにも触れることができるのは、冬将軍氏だからこそできたことだと言える。

 また、本著にはディスクガイドのほかにもヴィジュアル系にまつわるコラムも複数用意されている。こちらではシーンに影響を与えた重要アーティストをはじめ、当時のプレイヤーや使用楽器、所属レーベルの特徴などについて触れられており、ディスクガイドで語られきれなかった側面についての補足もなされている。こちらも冬将軍氏というヴィジュアル系専門ライターではない書き手だからこその視点満載で、個人的には興味深く拝読させてもらった。

 ヴィジュアル系シーンのど真ん中で活躍してきたライターではないからこその、少し引いた目線での同カルチャーの分析は、どっぷり浸かってきたかつてのヴィジュアル系ファンにとっては若干のズレを感じるものかもしれない。しかし、「J-POP / J-ROCK史という大きな括りの中で語るヴィジュアル系」と捉えるとこれが最適ではないかと、私は考えている。本著で取り上げられた100枚のうち9割近くは聴いてきたものの、本著を読んだことでまた新たな視点で触れられることができるであろう作品、そしてこれを機にも手を伸ばしてみようと思ったまだ聴いたことがない作品にも出会うことができたのも、個人的には大きな収穫だ。インディーズ作品の中には現在サブスク配信されていないもの多いが、改めてCDというフォーマットを通じてこれらの作品に触れることで、“あの頃”を追体験できるのではないか……そんなことを考えさせてくれる本著は、ぜひ幅広い世代の音楽ファンに手に取っていただきたい1冊だ。

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