寺内康太郎×大森時生『フェイクドキュメンタリーQ』対談 「本で読んだ後に映像を見ると、ショックを受ける」

『フェイクドキュメンタリーQ』対談

この夏、最注目の一冊

フェイクドキュメンタリーQ
『フェイクドキュメンタリーQ』(双葉社)

 チャンネル登録者数28万人超を誇るYouTubeチャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」は、ホラー好きの間で「今一番キている」と評され、モキュメンタリーホラーというジャンルを築いたパイオニアとして認知されている。そんな「フェイクドキュメンタリーQ」が初めて、『フェイクドキュメンタリーQ』(双葉社/刊)として書籍化された。

 『フェイクドキュメンタリーQ』は7月25日の発売以来、Amazon売れ筋ランキング1位を独占中で、10日も経たないうちに重版がかかったほど。現時点ですでに3刷、約5.5万部のベストセラーとなっている。SNSでも話題が沸騰し、完売する書店も続出しているという。まさに、この夏もっとも注目されている一冊となっている。

 版元の双葉社によると、男性はもちろんだが、女性や子どもからの支持も得られているという。タイトルの「読むと死にます」がカタカナで“ヨムシヌ本”と評され、「キムラヒサコと目を合わせないでください」などのフレーズがとにかく怖すぎると子どもからも評判となり、若い女性の間でもホラーブームが起こるほど。さらに、Amazonでは「ギフトとしてよく贈られる商品」のランキングで2位になっていることから、その評判がうかがえるだろう。

 本の仕掛けもユニークだ。本文に挿入されているQRコードを読み取れば、音声が流れ、動画が見られる仕様になっている。これがまた、怖い、体験できるQRコードとして評価が高まっている。今回は「フェイクドキュメンタリーQ」を立ち上げ、映像制作を担う監督の寺内康太郎氏と、テレビ東京の大森時生氏にインタビュー。今回の本の見どころから、独特過ぎる映像表現を生み出すポイントまで深掘りした。

Qっていったいどんな団体?

寺内康太郎
寺内康太郎氏

――Qとはどのような団体なのでしょうか。構成メンバーについて“お話しできる範囲内”で教えてください。

寺内:Qは映像制作を生業にしているクリエイターの集合体です。構成メンバーに関しては今回の本で初めて触れましたが、まず僕と、YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』のディレクターの皆口大地、福井鶴、遠藤香代子の4人がスタートメンバーです。4人が集まった経緯ですが、福井さんと遠藤さんは僕と前から仕事仲間で、その後に皆口さんと僕の出会いがありました。つまり、僕のグループと皆口さんが組んで4人になったわけです。

――大森さんは、寺内さんと様々な映像を制作していますよね。

大森時生
大森時生氏

大森:僕は2019年にテレビ東京に入社して、寺内さんとはテレビ東京でフェイクドキュメンタリーの特番をやっています。Qの動画も、一ファンの立場からいつも楽しみにしていますよ。

――寺内さんとの出会いは何がきっかけだったのですか。

大森:最初のきっかけは、皆口さんとWEB媒体で対談したことです。話しているうちに皆口さんとやりたいことが近いと思い、その後、一緒に食事をした時に寺内さんと同席したんです。寺内さんとはその場で意気投合し、仕事をすることになりました。僕は大学生の頃に阿澄思惟さんの『忌録 documentX』を読んでから、ミステリーとはまた違う、明確に答えがあるわけではないのに物語に飲み込まれていく、不気味さと強制的に対峙する作品を好むようになりました。あとは黒沢清さんなど、Jホラーが割と好きで、その作風が制作している番組にも反映されています。

1作目の公開までは紆余曲折があった

――Qのメンバーが集まって、映像の企画が立ち上がったのはいつですか。

寺内:2021年3月上旬だったと思います。大塚のロイヤルホストで4人全員が初めてそろい、そこでQを始めましょうと話しました。もっとも、当時はまだQという名前ではありませんでした。

――どういった映像を作るかといった方針や、Qの理念もこの時に作られたのでしょうか。

寺内:そもそも、僕たちはどのような表現が向いているのか。皆口さんに、『ゾゾゾ』からのノウハウをもとにアドバイスしてもらった記憶があります。そして、とにかくこれまで同様に怖い映像作品を創るべきだという結論に至りました。自分たちが新たに勉強をしなくても、今まで通りにやれば始められるねということで、すぐに動き始めました。YouTubeのチャンネルはエイプリルフールの4月1日に作り、少しずつ作品をためて、発表のタイミングを考えました。これも皆口さんのアイデアです。

――最初に完成した映像は何だったのでしょう。

寺内:今、YouTubeでファーストシーズンの第9話になっている「献花」から作り始めました。サラリーマンの自宅の玄関先に献花があり、誰がやっているのか……という街頭録音からスタートする話です。実は、この話が最初に公開される予定で、夏に向けて出すぞと意気込んでいたんですよ。

――にもかかわらず、第9話になったのはなぜですか。

寺内:心霊YouTuber業界にアンテナを張っていた皆口さんから、当時その界隈でやらせ疑惑が問題になっていると聞きました。さらに、やらせを暴くチャンネルも出現して、混沌としていたそうです。そこで、1発目は別の話に替えようとなりました。このとき、「フェイクドキュメンタリーQ」という名称も決まったのですが、フェイクを名乗るにふさわしい映像を1番目にしようと。こうして急遽制作したのが、「封印されたフェイクドキュメンタリー - Cursed Video」です。

大森:当初予定していた「献花」は、だいぶ後回しになってしまったわけですね(笑)。

敢えて“フェイク”と謳うわけ

封印されたフェイクドキュメンタリー - Cursed Video

――「封印されたフェイクドキュメンタリー - Cursed Video」は“見たら死ぬビデオ”を扱った人気作です。反響は大きかったでしょうね。

寺内:チャンネルを作った時点で1万人くらい登録者数がありました。皆口さんが新しいチャンネルを立ちあげて、僕の名前も出ていたので、世間からなんだろうと注目を浴びていた影響もあると思います。とにかく、普通にホラーが好きな人たちが登録してくださいました。ただ、最初の動画は、本来なら8時などのゴールデンタイムを狙って出すものなんですが、敢えて土曜日の夜12時という深い時間で、しかも当初からプレミアム公開でした。

――かなり挑戦的なブランディングですよね。

寺内:皆口さんがよく考えてくださったと思います。『ゾゾゾ』は基本的にゴールデンタイムに公開するのですが、まったく違うものとしてQが存在するために考え抜かれたといえます。他と違うことをやっていこうという想いが表れていますよ。

大森:いやぁ、最初から衝撃的ですね。もし僕がメンバーだったら、その公開時間帯は反対していると思います(笑)。今でこそある程度フェイクドキュメンタリーが市民権を得ていますが、Qが立ち上がった頃は、現在のような立ち位置ではないと思いますから。

――敢えて“フェイク”と堂々と謳っている点には、どのような狙いがあるのでしょうか。

寺内:先ほどやらせ疑惑の話をしたと思いますが、既存の心霊ドキュメンタリーは実話であると謳ったり、絶対に嘘だとばれないようにしすぎて、かえって胡散臭いものになっていました。それならフェイクと言った方が自由度も高いし、理想の映像を追求できると。当時、やらせの問題がセンシティブに語られ、チャンネルをやめてしまう人も続出してしました。そんななかで、フェイクと最初から謳っているチャンネルは他になかったのです。状況を逆手にとったといえますね。

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