『超かぐや姫!』往年のボカロファンはどう見た? 世界ヒットの背景とボカロ文化の成熟

ボカロファンが見た『超かぐや姫!』
ノベライズ版『超かぐや姫!』(KADOKAWA)

 ヒット中のNetflixオリジナルアニメ『超かぐや姫!』は、ゼロ年代に始まったボカロ文化を大々的にフィーチャーした作品だ。ボカロ文化発祥の地である日本はもちろん、韓国、台湾、香港、タイといったアジア諸国でもランキング上位に食い込む動きを見せている。

 では、この作品は長年のボカロファンの目にはどのように映るのだろうか。ボカロシーンに詳しく、昨年12月に刊行した『初音ミク 10th ANNIVERSARY BOOK』(blueprint)の制作にも携わった編集者の橋川良寛に聞いた。

『初音ミク 10th ANNIVERSARY BOOK』(blueprint)

 まず、『超かぐや姫!』を見た率直な感想はどのようなものだったのか。

 「全体として明るい物語で、ボカロ文化黎明期の無邪気な盛り上がりを思い出しましたね。一方で、2000年代に別れの挨拶もなく“月(現実)に帰って”しまうクリエイターたちを見送ってきた世代にとっては、『人の心を動かすことの価値』が自然に認められている現実と地続きの世界観は、懐古趣味的な見方よりも『いい時代になった』という感覚を抱かせるものだったのではと思います。懐かしいボカロ曲も多く登場していますが、現代的なアレンジで物語に調和していて、前評判として聞いていた『ボカロアニメ』という印象は強くありませんでした。ボカロ文化だけでなく、とりわけUGC(ユーザー生成コンテンツ)の要素が強い領域で活動するクリエイターと、それを応援するファンの背中を押すような、痛快な作品だったと思います。

 映画内の仮想空間『ツクヨミ』の設定も、新規利用者に向けたチュートリアルから『みんなが表現者』であることを謳っていて、広くUGC、特に音楽という表現の間口を大きく広げたボカロ文化との親和性を感じさせました。そもそもバーチャルシンガーが歌うことを前提として作られたボカロ曲は、当然ながらバーチャルな世界観と相性がよい。たとえば『ツクヨミ』内のライブで『ワールドイズマイン』(ryo)のパフォーマンスがありましたが、実際にVTuberのライブでもよく歌われているためまったく違和感がありませんでした。プロデューサーを意味する『P』という愛称も使われており、作中で具体的な言及はなくても、仮想空間を構成する大きな要素として、ボカロ的な文化が存在していることが伝わってきます」

 やはり『超かぐや姫!』はボカロファンから見ても好ましい作品だったようだ。しかし、なぜこの作品が日本だけでなくアジア諸国でウケているのだろうか。

 「中国では動画共有サイトbilibili(ビリビリ)の存在もあり、2015年に上海で開催された『MIKU EXPO』以降、イベントも豊富で、日本発のIPのなかでも初音ミクはとりわけ高い人気を誇っています。韓国では『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(プロセカ)をきっかけにボカロ人気が拡大中。『初音ミクシンフォニー』でも東アジアからの観客が多く、自国の仲間のために多くのグッズを購入していく姿が見られます。

 ボカロ文化の広がりはアジアや世界という空間的なものだけでなく、ゼロ年代から現代までの約20年という時間的な面でも感じます。AIやメタバース、VTuber、ストリーマーなど近年で勃興してきたテクノロジー/カルチャーとボカロの好相性とともに、ニッチなものではなく、日本発のポピュラーカルチャーのど真ん中、という感じでこれが広く受け入れられたのは、月並みですがボカロネイティブの世代がエンタメを支える年代になってきたことが大きいと思います。原曲だけでなく、VTuberのカバーや音ゲーのプレイリストでも自然と新旧のボカロ曲に触れ、米津玄師やAyase(YOASOBI)の例を引くまでもなく、広く音楽シーンの最前線にボカロ文脈のアーティストがずっしりと座っているのが当たり前だという世代の感覚(あるいはそういう世代に訴求しようという姿勢)がなければ、本作ほど効果的にボカロ曲やボカロPを起用することはできなかったと思います。『ほら、この曲懐かしいでしょ?』『泣けるよね?』という過剰な押し付けがなく、とても自然なかたちで心に響くものでしたから」

 橋川が語るとおり、『超かぐや姫!』には随所でボカロ曲やボカロPが起用されている。作品での使用のされ方から読み取れるものはあったのだろうか。

 「これも『自然さ』につながるところですが、ボカロ通に『よくわかってる!』と共感されにいくのではなく、筋の通った王道感のあるラインナップだと思います。

 メインテーマ『Ex-Otogibanashi』を手がけたryo (supercell)は、仕事を選ばないネタ的存在でもあった初音ミクを『メルト』で歌姫に押し上げたレジェンド。『メルト』には、仕事をしながら限られた制作環境で作り上げたというエピソードもあり、かぐやに楽曲をつくる彩葉に重なるところもあります。またかぐやの卒業ライブで演じられた『Reply』は、Google ChromeのCM曲『Tell Your World』で、初音ミクの世界をさらに押し広げたkz (livetune)が手がけている。『瞬間、シンフォニー。』の40mPは、NHK『みんなのうた』に初めてバーチャルシンガーの歌唱曲を提供したアーティストで、やはりメジャー感があります。そのなかで、初音ミクを一般の音楽ファンの目に触れるステージまでエスコートした、BUMP OF CHICKENの『ray』がエンディングに流れるのも、物語として一貫性がありました。

 はじめに『ボカロアニメという印象は強くない』と言いましたが、本作は、ボカロシーンと関連する楽曲を悪目立ちさせることなく、それぞれの曲、それぞれのクリエイターがもつ物語を並走させながら、感動を増幅することに成功しているのではと思います。つまり、何も知らずに見ても楽しめるが、背景を知っているひとにもご褒美があるタイプの作品だと思います」

 たしかに、ボカロ文化にほとんど親しんでいなかった筆者にとっても『超かぐや姫!』は楽しい作品だった。そして、ボカロファンからの解説を聞いたいま、もう一度違う視点から楽しみ直すこともできそうだ。

■関連情報
『初音ミクシンフォニー 10th ANNIVERSARY BOOK』
価格:6,600円(税込)
発売日:2025年12月27日
出版社:blueprint

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