創元SF文庫60年の歴史が一冊に! 海外SFを楽しむための道しるべ『創元SF文庫総解説』

海外SFの道しるべ『創元SF文庫総解説』

 東京創元社の創元SF文庫には、ずいぶん世話になっている。もちろん、ハヤカワ文庫SFにも世話になっている。なぜなら私が田舎暮らしをしていた少年の頃、市内の書店で手軽に買える海外SFは、ほぼこの二つの文庫レーベルしかなかったからだ。

 少し歴史を書くと、創元SF文庫は、日本初のSF専門文庫である。1963年9月に創刊。最初は創元推理文庫のSF部門だったが、1991年に東京創元社の文庫全体の著者整理番号が一新され、名称が創元SF文庫に変更された。もっと以前から、当たり前のように創元SF文庫と呼んでいたので、ちょっと意外である。実は本書、創元SF文庫を読んでいる人でも知らないような情報が、かなり詰め込まれている。高橋良平と戸川安宣の対談「草創期の創元SF」や、加藤直之と岩郷重力の対談「創元SF文庫の装幀」は、貴重な話がボロボロ出てくる。もはや歴史の証言だ。

 と、いきなり対談に触れてしまったが、本書のメインは創元SF文庫で出版された、各作品のガイドである。トップを切るのは《フレドリック・ブラウン短編集》全四作だが、これは創刊第一弾がブラウンの『未来世界から来た男』だからだろう。掌編集ということで読みやすく、夢中になった記憶がある。短編集『天使と宇宙船』も面白い。なかでも「ミミズ天使」は必読。こんな発想があるのかと仰天したものである。

 ただし、ブラウンが最初に手に取った創元SF文庫ではない。おそらく始まりの一冊は、E・Rバローズの『火星のプリンセス』だろう。元南軍の騎兵大尉のジョン・カーターが、不思議な睡魔に襲われ、目覚めたら見知らぬ草原に横たわっていた。肉体を離脱して、戦乱の火星に転移したのだ。そして波乱万丈の冒険の末、火星のヘリウム帝国の王女デジャー・ソリスと結ばれる。今のネット小説の異世界転生・転移ものの先駆的作品といっていい。昔も今も、求められるエンターテンメント作品は変わらないものだ。

 さて、私がこの本を手に取ったのは、当然、武部本一郎の描いたデジャー・ソリスが、カバー・イラストになっていたからである。中村融が担当した《火星シリーズ》全十一巻の項を見ると、「カラー口絵と挿絵がつくのは本文庫初の試みであり、武部本一郎の描くデジャー・ソリスの魅力もあいまって同書はベストセラーを記録し、本邦におけるスペース・オペラの―隆盛の礎を築いた」とある。たしかにここから、スペース・オペラを読むようになったなあ。E・E・スミスの「《レンズマン》全七巻」「《スカイラーク》全四巻」など、創元SF文庫のおかげですぐに読めたのが有難い。

 武部のカバー・イラストは創元SF文庫の売りであり、私も一通り買った。アンドレ・ノートンの《ウイッチ・ワールド》全五巻も好きだった。ということで《ウイッチ・ワールド》の項を捜したが見つからない。同じ作者の『猫と狐と洗い熊』は載っているのにどういうことだ。と思ったら、牧眞司の「SF文庫以外のSF作品」に「『SFマーク』からホラー&ファンタジィ部門へ移籍になった」と書かれている。そうだったのか。まったく気がつかなかった。

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