『呪術廻戦』“最強の呪術師”五条悟が「若人の青春」を守ろうとするワケは? 心に刻まれた“2つの後悔”

五条悟が「若人(わこうど)の青春」を重視するワケ

 『呪術廻戦 0』の序盤で、五条が教え子の乙骨憂太に向かって、「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人(なんぴと)たりともね」という場面が出てくる。また、『呪術廻戦』本編の第11話でも、彼は虎杖悠仁に向かって同じことをいっている(あらためていうまでもなく、乙骨と虎杖はそれぞれの物語の主人公である)。

 この2つの場面は、いずれも雑誌掲載時の段階ではあまり重要な意味を持っているようには見えなかったかもしれないが(セリフ自体は印象に残ったかもしれないが)、のちに描かれた天内理子をめぐる一件と夏油傑の闇落ちを踏まえて再読してみると、五条の“本心”が垣間見えて興味深い。

 つまり、彼の中では、2つの後悔――「青春」を取り上げられた少女を守り切れなかった後悔と、ともに「青春」時代を過ごした親友の闇落ちを防げなかった後悔が、いまでもかなりの比重を占めているのだと思われる(伏黒甚爾との戦闘中には、「ごめん、天内。俺は今、オマエのために怒ってない」ともいっているが、かといって彼女のことを忘れるはずもないだろう)。

 いずれにせよ、五条は、この狂った世界を完全に破壊しようとしている夏油の方が、実は“正気”なのだということを知っている。さらにいえば、最強の呪術師である自分こそが、それをやるべき存在であるということもわかっている(ある意味では、盤星教の本部で「コイツら、殺すか?」といった時の彼は、その一歩手前まで行っていたといえなくもない)。

 しかし、彼はその“道”を選ばなかった。なぜならそれは、現在の呪術界とは別の巨大な暴力装置が世界を支配するだけのことであり、“何か”が大きく変わるわけではないからだ。

 だからこそ彼は、いま「青春」のまっただなかにいる乙骨憂太や虎杖悠仁らに未来を託し、自らの生きざまを見せ、ともに世界を内側から変えようとしているのではないだろうか。そういう意味では、この『呪術廻戦』という長い物語の真の主人公は、(乙骨でも虎杖でもなく)五条悟であるといってもいいかもしれない。

※本稿で引用した漫画のセリフは、原文の一部に句読点を打ったものです。(筆者)

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