『逃げ上手の若君』が完結! 『ネウロ』『暗殺教室』……松井優征「週刊少年ジャンプ」で“3打数3本塁打”ヒット創出の極意

松井優征の人気漫画『逃げ上手の若君』が2月16日発売の「週刊少年ジャンプ」12号で最終回を迎え、約5年の連載に幕を下ろした。
2021年にスタートした本作は、鎌倉幕府の総帥・北条高時の次男として生まれた北条時行が、幕府滅亡という絶望から立ち上がり、動乱の世を「逃げて」生き抜く姿を描いた史実ベースの逃亡譚だ。完結直後のネット上では「松井先生の作品の中で一番刺さった」「名も無き偉人が陽の目を浴びたと言える傑作」「読む人を前向きにさせて人生の指針や支えになってくれる王道の少年漫画」といった読者の声が続出。さらには、日本史の中でも馴染みが薄いとされる南北朝時代を扱いながら、高い構成力で描き切った点に対し、歴史ファンからも拍手が贈られている。
本作の完結により、松井はアニメ化もされた『魔人探偵脳噛ネウロ』(2004~2009年)、アニメ&実写映画化され発行部数は2700万部を超える『暗殺教室』(2012~2016年)に続き、異なるジャンルの3作品すべてを長期ヒットへと導き、物語を完遂させるという偉業を成し遂げた。アンケート至上主義と言われる「週刊少年ジャンプ」にて、いわば“3打数3本塁打”という驚異的な成果を達成した背景には、作者独自の極めて論理的な創作哲学が存在する。
YouTubeチャンネル「ジャンプチャンネル」で公開された講義映像や、創作講座「ジャンプの漫画学校」で披露された持論によれば、松井の技術は再現性のあるロジックとして言語化されており、それは漫画家に必要な要素を戦闘能力になぞらえた「攻撃力」と「防御力」の概念に集約される。
この独自の視点が最も活かされているのが、読者に対する徹底した客観性だ。松井は、多くの読者を惹きつける世界観や設定、上手な絵、面白いストーリー、魅力的なキャラといった要素を「攻撃力」に分類。これらは天性のセンスや運に左右される側面も強いという。対して、時間や労力といった読者が読み進める際の“負荷”を減らすための作家の働きを「防御力」と定義している。
ヒット作を出した漫画家であっても、次作が短期打ち切りとなるケースもあるが、松井氏は攻撃力が不十分な時でも防御力によって人気の下降線を緩やかにし、次の上昇気流を待つ猶予を作る戦略を重視しているのだ。
具体的には、ネームの段階で自分自身を「忙しく疲れ切った読者」の心理状態に置き、内容を厳しく検品する。文字情報の過多や視線誘導の不備がないかを確認し、情報量を適切に削ぎ落とすことで、読者が無意識に感じる負担を軽減させる。セリフを1文字でも削る努力や、あえて単調なコマ割りを挟んで読者の脳を休ませるメリハリ、さらには複数の情報を1つの描写に集約する「兼ねる」という技術……こうした制作手法を徹底することで、「勝率」も上がるのだとか。
連載を続けるための考え方も戦略的である。松井氏は「毎回面白い漫画を描くぞ」という意気込みだけに頼らず、設計段階でいつ終了しても物語が成立するように、巻数に応じた複数の着地点を想定したプロットを構築する。これは人気が出た際の引き延ばしによる質の低下を防ぐと同時に、急な連載終了が起きた場合でも作品の質を損なわないためのリスク管理だという。『逃げ上手の若君』においても、先行作品の少ない南北朝時代を選択したのは、“ブルーオーシャン”を狙うという客観的な判断があったから。史実という枠組みの中で、キャラクターに現代的な感情を付与し、かつ歴史考証を疎かにしないバランス感覚が、既存の歴史ファンと若年層の両方を納得させる結果に繋がっている。連載開始当初は乏しかった「北条時行」に関するWikipediaが、いまや膨大な情報量となっていることも漫画が歴史に新たな光を当てた証左だろう。
作品構造における「ギャップの活用」も見逃せない。『魔人探偵脳噛ネウロ』では「謎を食う魔人」と「女子高生探偵」、『暗殺教室』では「暗殺」と「教室」、『逃げ上手の若君』では「逃亡」と「英雄」というふうに、相反する要素を掛け合わせていく。文章によるプロット作成を重視し、起承転結のページ配分を厳格に管理する。編集者からの修正要望を予測してページ数に余裕を持たせる。松井氏は制作工程をシステム化することで、「ヒットの極意」を創出したのだ。
『逃げ上手の若君』単行本の最終27巻は10月2日発売予定。TVアニメ第2期の放送も7月に控えており、まだしばらく作品の余韻に浸れそうだ。
























