『呪術廻戦』呪力を持たないヒモ男・伏黒甚爾はなぜ人気なのか? “無能力”というロマンと可能性を考える

※本稿は『呪術廻戦』のネタバレを含みます。原作未読の方はご注意ください。

 好評放送中のアニメ『呪術廻戦』第2期。現在は「懐玉・玉折」編として、“最強の呪術師”五条悟と“最悪の呪詛師”夏油傑の高専時代の物語が進行し、佳境を迎えている。そんななかで登場したのが、作中でも特異な存在で、原作ファンからも高い人気を誇る“術士殺し”伏黒甚爾(ふしぐろ・とうじ)だ。

 伏黒甚爾は本作の主要キャラクターの一人・伏黒恵の実父であり、五条悟らと敵対する最強格の存在だ。多くの有能な呪術師を輩出してきた名門・禪院家に生まれながらまったく呪術を持たず、不遇な幼少期を送ったこともあり、ヒモとして女性のもとを転々としながら、暗殺業を請け負うなど完全なアウトローになった。

 呪力がものをいう世界で、それを持たない伏黒甚爾がなぜ最強格なのか。それは、生まれながらに完全に呪力を犠牲にしている(天与呪縛)ことと引き換えに、圧倒的な身体能力と五感の鋭さ(フィジカルギフテッド)を獲得しており、呪いへの耐性も高く、多くの呪術師にとって天敵のような能力を備えているからだ。作中最強の呪術師、五条すら圧倒されるほどの戦闘力である。

 「無能力」というと語弊があるが、作品世界で極めて重要な力を持たず、しかし圧倒的な強さを持つキャラクターにはロマンがある。

 ジャンプ作品でいうなら、『NARUTO』の人気キャラクターで、忍術や幻術の才能を持たず体術を極めたロック・リー。あるいは、魔法の世界で魔力を持たず、異能で活躍する『ブラッククローバー』のアスタや、『マッシュル-MASHLE-』のマッシュ・バーンデッド。また、もともとヒーローに必須な固有の能力“個性”を持たなかった『僕のヒーローアカデミア』の緑谷出久(デク)もそれに近いかもしれない。

 ジャンプ作品から離れると、『とある魔術の禁書目録』シリーズの上条当麻を思い浮かべる人も多いだろう。作中に登場する超能力や魔術が使えず、しかし右手でそれらをすべて無効化する「幻想殺し(イマジンブレイカー)」という異能を持つ上条当麻はやはり、作品世界でイレギュラーだからこそ、ロマンのあるキャラクターだ。

 彼らはいずれも、基本的に不遇のなかでも正しい精神を持ち、努力や信念で逆境を跳ね除けながら前進するキャラクターであり、伏黒甚爾のように不敵なアウトローとして登場するのは珍しい。とはいえ、甚爾が単純な「クズ」「悪役」とは断じられない複雑な魅力のあるキャラクターになっているのは、不遇ゆえに人格形成に納得感があり、やはりその能力にロマンがあることが大きいだろう。勝手気ままに生きているように見えて、息子の恵に対する愛情らしきものが垣間見えるのも憎めないところだ。

 伏黒甚爾は物語から退場しているが、「死」の概念が現実とは違う『呪術廻戦』という作品だけに、思わぬ形での再登場もあった。原作漫画『呪術廻戦』の連載では、いま作中で最も強大な呪力を持つ二人のキャラクターが激戦を繰り広げているが、伏黒甚爾というイレギュラーな存在が再び脚光を浴びる日は来るのか、期待したいところだ。

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