「魔法科高校の劣等生」シリーズの面白さは爽快感にアリ 劣等生にして最強の魔法使いが敵をなぎ倒す
タイトルと内容が、これほどまでに違っているライトノベルも珍しい。そして同時に、このタイトルだからこそ感じ取れる面白さを持ったライトノベルもなかなかない。佐島勤による「魔法科高校の劣等生」シリーズ(電撃文庫)は、圧倒的な強さを持ちながらも劣等生と見なされている少年が、才能と努力と強い思いを胸に抱きながら突き進んでいく爽快感で、大勢のファンを引きつけているバトルファンタジーだ。
一種の超能力が魔法と呼ばれ、その魔法を扱う才能を持った者たちが「魔法師」として存在する世界。日本でも優れた魔法師を養成する高等学校が幾つか作られた。そのひとつ、国立魔法大学付属第一高校に入学した司波達也だったが、強大な魔法の力を持ち、一科生として同じ高校に入学した年子の妹の司波深雪とは違って使える魔法が少なく、劣等生組の二科生に甘んじていた。
そんな達也や他の二科生たちを侮り誹る者たちが現れるのが、格差の存在する世界のセオリーで、エリートぶる一科生から数々の嫌がらせを受けることになる。けれども、達也には使える魔法が少ない代わりに他の誰も持っていない最強とも言える能力があった。魔法に関する厖大な知識も持っていた。これらを駆使し、達也は劣等生組の持つ個々の才能を引き出しチームとしてまとめ上げ、優等生組を圧倒すらしていく。まさに下克上の物語。楽しくないはずがない。
魔法が単に呪文を唱えるだけで勝手に発動するのではなく、物理的な作用を人為的に起こすことで効果を発揮するような体系づけられたものとなっていることも、現象への納得感を含んだ関心を抱かせた。理屈っぽさを感じる人もいそうだが、だからこそぶつかりあう魔法のどちらに分があるかが理解できた。詳細に説明され続ける多彩な魔法による現象の数々から、この世界の深い部分に迫れるような感覚を味わえるところもあった。
どうして達也は劣等生であり、同時にとてつもない力を持った魔法師なのか。それは、所属する魔法師の師族によって幼い頃に施されたある人体実験の結果だ。分解と再生という生まれ持った魔法の能力が極限まで高められてしまったことで、他の魔法を使えず総合力が判定される試験では劣等生扱いされてしまった。けれども、極大化された能力を駆使すれば、それこそ核兵器すら凌駕するような爆発すら引き起こすことができる。実際に、国家間の紛争でその力をふるって見せて、世界を戦慄させる。
徐々に明らかにされていく達也の秘密といったものが、虐げられた劣等生から圧倒的な力を持ったヒーローへとイメージを変えていく。以後は、次々に現れてくる同年代のライバルたちや、国外から襲ってくる敵、そして別の師族からの攻撃、さらにはパラサイトと呼ばれる異次元の存在に対して達也が見せる強者としての戦いぶりによって、強い爽快感がもたらされる。これが、「魔法科高校の劣等生」シリーズの大いなる魅力だ。
敗北に苦悩しながらも修行を重ね鍛錬を経て強くなり、逆転へと至るのがかつてのヒーロー物が持っていたスタイルだった。今は強いなら最初から最後まで強い方が、読んでいてストレスがかからないものとして好まれる。現実の世界で変わらない日常に絶望している人が、物語の中だけでも絶対の強さに浸っていたい。そんな理由もあって、「魔法科高校の劣等生」シリーズが支持されているのかもしれない。
達也がどこまでも妹の深雪を唯一の存在として想い続けているところも、彼を一途な人間に見せて、男性だけでなく女性からの支持をもたらしている。この一途さは、達也の魔法が分解と再生に限られていることと裏腹で、人体実験の過程で達也はほとんどの感情を奪われながらも、妹の深雪を思う気持ちだけは消されなかった。心にひとつでも拠り所があれば、人は強くなれる。ましてや最愛の妹を守りたいという気持ちがあり続けるからこそ、達也は冷酷な兵器にならずに人間のままでいられるのかもしれない。
これすらも達也を作りだした一族の計略で、達也が深雪という妹を絶対の存在と思わされることで、彼女を守ることの延長として友人を助けたり、日本を守ろうとしたりしているだけなのかもしれない。操り人形めいた運命の残酷さを覚えるシチュエーション。それでも、深雪の達也を強く思う気持ちは誰の干渉も受けない心底からのもの。その気持ちを受け止める心があったからこそ、達也は功利的な魔法師集団の思惑だけに従うことなく、深雪と共に自分たちが理想とする世界を作ろうと、突き進んでいけるのだ。