「ダンまち」シリーズ、10年続く人気の秘訣 “あらゆるキャラの出会いと成長”描いて壮大な物語に

「ダンまち」シリーズ人気の秘訣

 2022年10月発売の『アストレア・レコード1 邪悪胎動 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 英雄譚』から始まった、大森藤ノによるライトノベル「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズ(GA文庫)の連続刊行。当初の6カ月が12カ月連続に延びながら、ファンは飽きるどころか毎月新刊が読めると大喜びしている。そうしたファンの期待を裏切らず、中身の方も世界が広がりキャラクターも増えドラマの深さも増すばかり。ここまで「ダンまち」が広く深く展開できるのも、タイトルにある"出会い"を主人公だけに絞らず、あらゆるキャラクターたちについてしっかりと描いてきたからだ。

 2013年1月に第1巻となる『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』が出た時の印象は、冒険者に憧れていたひ弱な少年が、潜ったダンジョンでピンチに陥っていた時に助けてくれた美しい少女剣士に一目惚れして、いつか肩を並べるまでに成長していく青春ストーリーだった。その印象事態はシリーズの芯に強く残っていて、ベル・クラネルという主人公がアイズ・ヴァレンシュタインへの憧れを力に変えて、どんどんと強くなっていく姿が、巻を重ねながら描かれていく。そんなベルといっしょに成長していけるような感覚が「ダンまち」シリーズのひとつの読み味となっている。

 ただし、ベルが出会う相手も、そして憧れる相手もアイズだけではないところに、シリーズが長く続いて大きく広がっている理由がある。ヘスティアという、他にひとりも眷属のいなかった女神のファミリアに入って、最初は単独で冒険していたベルにリリルカ・アーデというサポーターの少女が近づき、ヴェルフ・クロッゾという鍛冶士の少年も加わって、パーティーの形ができていく。ふたりにはそれぞれに抱えていた事情があって、ベルの助けも借りながら壁を乗り越えていく。

 【剣姫】と呼ばれて、ダンジョンで凄まじい戦いぶりを見せるアイズだけでなく、アイズが所属する【ロキ・ファミリア】の団長で強さと賢さを備えたフィン・ディムナや、ダンジョンで血塗れになったベルを最初は嘲ったものの、へこたれずにダンジョンに挑み続けるベルを認めるようになるベート・ローガといった他の冒険者たちからも、ベルは強さを教わり勇気を学んで成長していく。そうしたキャラクターたちにもしっかりとドラマが用意されている。誰ひとりモブキャラがいないと思えるほど、人も神も含めた登場する者たちの「生」に触れさせて、関心を持たせてしまうところが「ダンまち」シリーズにはある。

 その中でもアイズは、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア』というシリーズで主人公的な存在となっていて、その数奇な出自が取りざたされ、強さや成長の早さに何か理由があるのではといったシリーズ全体に係わる謎を振りまく。この謎を追い求めるストーリーが、ベルの成長を綴った本編と重なった先に、「ダンまち」シリーズにどのような変化がもたらされるのかを期待しないではいられない。

 「ソード・オラトリア」のシリーズではまた、【ロキ・ファミリア】の所属でベルのように成長過程にあったエルフのレフィーヤ・ウィリディスが、因縁とも言える相手を戦わざるを得なくなるストーリーも紡がれる。本編ではあまり絡まないキャラクターをメインに据えても、数巻にまたがるドラマを描けるくらいにしっかりと、個々のキャラクターの思いであり関係性といったものが用意されている。

 ここにもやはり"出会い"がある。【ロキ・ファミリア】に入ったレフィーヤはアイズと出会い強さに惹かれる。フィルヴィス・シャリアという【デュオニソス・ファミリア】で団長を務めている女性のエルフとも、同じパーティーを組んで冒険を繰り広げる中で親しくなっていく。そうした出会いが後の展開にしっかりと効いてくる。それも同じシリーズだけでなく、ベルが主役の本編にも絡んで来るから、外伝だからといって読み逃せない。むしろもっと知りたいと積極的に読みに行ってしまう。"月刊ダンまち"状態が大歓迎されるのもそれが理由だ。

 ベルに戻れば、アイズへの憧憬を抱きつつ、主神のヘスティアから神と眷属といった関係を超えて強く慕われるという美少女まみれの状態が、さらなる出会いを重ねて膨らんでいく面白さがある。例えばリュー・リオン。ベルがよく行く酒場『豊穣の女主人』で働いている店員のひとりだが、所属していたファミリアの仲間を惨殺される凄絶な体験があって、抱えている思いにも複雑なものがあった。リューのそうした過去もしっかりと描かれていて、連続刊行の口火を切った「アストレア・レコード」シリーズの中で触れることができる。

 そのリューがベルと出会い、いっしょに冒険を重ねる中でどこまでも愚直で優しいベルに惹かれていく展開に、ベルの無意識のジゴロぶりが見て取れる。急成長するベルに興味を持って虜にしようと画策した美神イシュタルも、そのイシュタルに囲われていたサンジョウノ・春姫もベルにぞっこん。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア13』でも、新たにハーフエルフの少女がベルの"毒牙"にかかったようで、その顛末が知れそうな本編が今は待ち遠しい。

 そんなベルとの出会いによって、運命を大きく変えてしまった女性のストーリーが、「ダンまち」シリーズ本編では、ベルとアイズの関係に並んで太い水流となっていた。『豊穣の女主人』で働きながら、ベルにお弁当を作って渡すような世話好きぶりを見せているシル・フローヴァという少女であり、同時にダンジョンがある街オラリオで【ロキ・ファミリア】と双璧の勢力を持った【フレイヤ・ファミリア】を率いる女神フレイヤが、ベルに対する思慕を最初は少しずつ、そして次第に大きく見せていった展開の果て。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか18』の、これがクライマックスかもと思わせる激しいバトルにたどり着く。

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