「全盛期のジャンプを目指す」KADOKAWA初の“週刊連載”電子コミックマガジン「MANGAバル」編集長・人見英行インタビュー

2024年12月、KADOKAWAから電子コミックマガジン「MANGAバル」が誕生した。出版社であるKADOKAWAとプラットフォーマーであるカカオピッコマが共同で取り組むユニークなプロジェクトだ。コンテンツが飽和している今の時代に新創刊の媒体はなにを目指すのか。編集長の人見英行にインタビューを行い、「週刊連載」にかける意気込みを聞いた。
「毎日新しい作品を」KADOKAWA初の試み
ーーKADOKAWAとピッコマという強力なタッグで生まれた電子コミックマガジン「MANGAバル」ですが、そもそもどんな経緯で企画されたのでしょうか。
人見:弊社代表執行役社長の夏野剛と、カカオピッコマ社の金在龍(キム・ジェヨン)社長に以前から交流があり、「一緒に何かやりたいね」という話をしていたことがきっかけでした。ピッコマさんとしては、韓国発のwebtoonで大きく成長してきたなかで、日本式の版面漫画にも挑戦したいという意向があり、それではKADOKAWAのノウハウを使って新しい漫画作品のラインを立ち上げようという形になりました。
ーー当初から漫画誌クオリティの作品が毎日更新されていることに驚いています。
人見:最初は雑誌を念頭に置いた更新ペースで考えていたのですが、夏野は編集者ではなくプラットフォーマー出身なので、その感覚で「読者は毎日、新しい作品を読みたいだろう」と(笑)。
KADOKAWAとしても初の試みで大変ではありますが、各曜日に「週刊連載」を設けることで、毎日更新を行うことにしました。作品のクオリティについては、前提としてピッコマさんは毎月1000万人以上が利用しており、非常に多くのユーザーを抱えています。そこで週刊連載を走らせると考えたときに、「全盛期のジャンプを目指したい」という思いがあります。

アプリ上で扱われている作品は、連載中の新作においても「待てば¥0®︎」で読む人もいれば、課金して読む人もいます。自分が好きなものを好きなタイミングで読めるのは大きなメリットですが、裏を返すと、読んでいる作品がユーザーごとにバラけているともいえます。そのなかで、金社長は「共時性」という言葉をよく使われますが、同じ作品をリアルタイムで読んでいる人が何万人もいる、という盛り上がりを提供していこうと。まさに「ジャンプ」の発売日にみんなが買いに行って、教室で話題にしていたような状況を再現したいと考えました。そうした話のなかで、1年ほどかけて作品のラインナップを固めていったんです。
らしくないラインナップの意図は
ーー少年漫画的なアクション作品からロマンスファンタジーまで、王道とトレンドを押さえた幅広いラインナップになっています。KADOKAWAは漫画原作になり得る人気小説も豊富に抱えているのに、第一弾の連載作品がオリジナルで揃えられたのも意外でした。
人見:KADOKAWAはお客さんの顔が見える作品といいますか、「こういう方に好きになっていただける」という想定で作品をつくるのが得意な会社ではあるのですが、そうすると、ある程度決まったお客さんに手堅く届けていく、という作品になってしまうので、より幅広く読まれる作品を作らなければ、と考えました。
ーー得意のマーケットイン型ではなく、プロダクトアウト型で強い作品をつくろうと。具体的にはどんな流れでラインナップを揃えていったのでしょうか。
人見:最初に考えたのは、幅広く読まれる少年漫画的な作品、女性が楽しみにできる作品、ちょっと変わったフックのある作品、という3ラインから考えていきました。
ーー実際、初速として反響がいいのはどの作品ですか。
人見:ピッコマさんは女性ユーザーも多く抱えており、『嘘つき陛下が私に執着する理由』(原作:琴子/漫画:甘夏みのり)や『公爵家の愛されニセ幼女』(原作:琴子/漫画:ももやま)は好調です。また、夏野も推している猛獣コメディ『くまぐらし』(原作:野田宏/漫画:若松卓宏)も、3話で可愛い新キャラクターが登場したあたりから盛り上がっていますね。

ーー『くまぐらし』は生活の中に突如としてリアルな熊が現れ、共同生活を始めるという尖った作品です。ネットでも面白がられていますね。
人見:そうですね。ただ熊を頑張って描きすぎまして、キービジュアルがギャグ漫画というより怖い漫画にも見えてしまって(笑)。そういうこともあり、1話目からすぐに話題になったというより、口コミで広まってきているところです。
ーーKADOKAWAの得意分野でもある異能ファンタジーで言えば、『廻生の血盟者』(作家:エターナル14歳)も力作です。こちらもすでに評価を受けている人気ライトノベルを原作にするのではなく、オリジナル作品ですね。
人見:ライトノベル原作は、読者とのインタラクションも重要な週刊連載にはあまり適さないんじゃないか、というのも大きいですね。2月1日からは直木賞受賞のクライムノベル『テスカトリポカ』(佐藤究)のコミカライズ連載が始まりましたが、こちらは話題性のある一般書で広がりがあると考えて制作していて。今後もオリジナル作品が中心になると思います。
ーーKADOKAWA的王道感のある黒歴史ラブコメ『CMYK 鮫田和王は厨二病が治せない』(作家:コバシコ)などは、逆にノベライズも期待したくなる作品です。
人見:確かにこちらはKADOKAWAリスペクトを残した「涼宮ハルヒ」的な作品で、“令和版のキョンは大変そうだなぁ”と思いつつ(笑)、作者さんも力を入れてくださっているので、盛り上がるといいなと思っています。
ーー連載作品は今後も増えていきそうですか。
人見:そうですね。まずは3年を目処に、1日3作品が更新される状態にしたいと考えています。それぞれの曜日の3作品も読みやすいバランスにしたいですし、それだけ幅のあるラインナップを揃えながら、そのなかで100万人に読んでもらえる作品をつくりたいですね。
ーー「週刊連載」という新しい試みで苦労も多いと思いますが、編集部はどれくらいの規模で回しているのでしょうか。
人見:現在は15名くらいで、新連載の立ち上げに関わっているスタッフの方が多い状況です。月刊から週刊へ、というのも大変なのですが、紙の雑誌より電子の方が曜日感がなくて、土日もなく、合併号でお正月休みということもなくて。ウェブ上ですがひとつの媒体として責任を持ってやっていくというなかで、作家さんのケアも重要で、予定外の休載ができてしまわないように、ということも注意しています。もちろん体調面など、休載が必要になるケースはありますので、穴を開けないように読み切り作品の準備も進めているところです。