『薬屋のひとりごと』大ヒットを受けて“後宮医療ミステリー”続々 話題作をチェック!

『薬屋~』で話題の後宮医療ミステリー

 後宮で働く少女が王宮内で起こる事件を薬学の知識で解決していく。そんな内容の日向夏による小説『薬屋のひとりごと』(イラスト・しのとうこ、ヒーロー文庫)が遂にTVアニメ化される。ねこクラゲや倉田三ノ路によるコミカライズも含め、シリーズ累計2100万部という人気の理由は、ミステリーとしての面白さとキャラクター性の強さにありそう。評判を受け、後宮を舞台に薬学や医学に長けた女性たちが活躍する小説が続々と登場して、一大ジャンルを形成しつつあるほどだ。

 『薬屋のひとりごと』のTVアニメ化発表で、主人公の猫猫の声が悠木碧と発表されて誰もが「これはピッタリ」と思ったことだろう。『ワンパンマン』の戦慄のタツマキや『幼女戦記』のターニャ・デグレチャフとして聞かせてくれる強情さや、『平家物語』のびわから漂っていた達観ぶりが、人さらいによって後宮に売られた身であるにも関わらず、下女の仕事を淡々とこなしている猫猫というキャラクターに通じるところがあるからだ。

 花街で生まれ育った猫猫は、養父となってくれた医師から薬学の知識を学んで薬師として働いていた。後宮では目立たないように振る舞って、年季が明けるのを待つことにしていたが、そこに、皇帝の妃2人が生んだ男児の東宮と女児の公主が、共に体調を崩すという事態が発生。頭痛に腹痛に吐き気の症状があると聞き、ピンと来た猫猫は妃たちが言い争う姿を見て理由を確信し、こっそりと2人に書き付けを送った。

 猫猫という少女が王宮でとてつもない人物と知り合い、薬師としてのみならずその人物のパートナー的な存在となっていく『薬屋のひとりごと』シリーズのこれが発端。同じような症状だったにも関わらず東宮は亡くなり、公主が助かったことを気にした壬氏という名の美貌の宦官が、的確なアドバイスを送ったのは誰かを探して猫猫だと突き止めたことで、2人の間に共闘めいた関係が生まれ、以後のストーリーが繰り広げられていく。

 妃の体に現れる発疹の原因や、酒好きの武官が急死した原因を薬学や医学の見地からピタリと言い当てる。好奇心から身に着けた毒への耐性を活かして毒味役を務めて妃の毒殺を防いでのける。そうした活躍ぶりを見れば、たとえ無愛想でそばかすだらけのちんちくりんであっても、猫猫のことが気になってしまう。むしろそうしたギャップが人間としての魅力をアップして、言動を追わずにいられなくなる。

 壬氏も同じようで、猫猫のことを目に掛け別の男性と親しくしていることにやきもきする。男性機能を失っている宦官でありながらどうして? それこそが『薬屋のひとりごと』シリーズの大きな鍵となって、猫猫と壬氏を王宮に限らず遠く西都で起こる領主家の相続争いのような大事件に巻き込んでいく。第10巻から第12巻まで描かれたそのエピソードの中で、猫猫に最大とも言える危機が訪れるが、意外な人物の活躍で掬われるところはスパイ小説やアクション小説を読んでいるかのようだ。

 長く付き合っていけば、それだけ得られるものも大きくなるシリーズだけに、TVアニメ化も最後の最後まで行われて欲しいもの。とりあえず壬氏の声を誰が演じることになるのか、そして第2巻から登場してくる羅漢という、軍師にして希代の変人という男がアニメでもやはり強烈なインパクトを見せてくれるのかに注目だ。

 『薬屋のひとりごと』の人気ぶりが拓いたとも言えるのが、後宮を舞台にした女性たちによる謎解きストーリーのジャンル化だ。第6回角川文庫キャラクター小説大賞で大賞と読者賞を獲得した小野はるか『後宮の検屍女官』(角川文庫)もそのひとつ。皇帝の子を身ごもった妃嬪が、別の妃嬪から虐められ死んでしまった後、棺桶の中で産み落とした赤子が化けて後宮を徘徊しているという噂に、桃花という名の侍女が「死体が分娩することなんて普通だ」とつぶやいた。

 このことを聞いた延命という宦官によって引っ張り出された桃花が、持っていた検屍の知識を生かして他の事件も次々と解き明かしていくというストーリー。最新刊の『後宮の検屍女官4』(角川文庫)では、皇帝の寵妃が呪い殺されたらしい事件に関係していたと見られた延命が投獄されてしまう。彼を救おうと桃花が死んだ妃のどうにかして遺体を検分し、驚くべき死の真実を突き止めるが、その理由を探る中である謀略が浮かび上がってくる。美女でありながらぐうたらで寝るのが大好きというギャップが魅力だった桃花が、冤罪は絶対に許さないと必死になる姿に、シリーズを通しての成長ぶりが感じられる。

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