「ようこそ実力至上主義の教室へ」シリーズ、圧倒的支持の理由は「陰の実力者の暗躍」と「ゲーム性」にアリ

「よう実」シリーズ人気の理由

 庵野秀明監督による『シン・仮面ライダー』を観て、殴り蹴ってショッカーの怪人を倒す仮面のヒーローへの憧れを、一段と募らせた人も大勢いそう。同時に、敵として登場する怪人やその頂点に立つチョウオーグが、陰から世界を操ろうと暗躍する姿に、悪の美学を感じて惹かれた人もいるだろう。

 ヒーローが嫌いな訳ではないけれど、実力だけでなく容姿やら人望といったものも求められそうなヒーローのポジションに立つ自信はない。そんな人たちにとって、見えない場所で権謀術数を巡らせ、世の中を意のままに動かす陰の実力者となり、闇の支配者となった“シャドウヒーロー”のポジションなら、まだ手に届くかもしれないと思えるのだ。

 「このライトノベルがすごい!2023」で衣笠彰梧の「ようこそ実力至上主義の教室へ」シリーズが栄えある文庫部門の第1位に輝いた理由にもそんな、秘められた実力を密かに発揮して承認欲求を満たし、愉悦に浸りたいと願う読者の支持があったからかもしれない。

 「よう実」と略される「ようこそ実力至上主義の教室へ」シリーズは、MF文庫Jで2015年5月から刊行が始まって2023年で8年目を迎える。主人公の綾小路清隆が進学したのは、卒業時には希望する進学や就職が100%かなうという名門校の高度育成高等学校。もっとも、クラス分けで配属されたのは最底辺の1年Dクラスで、卒業時に恩恵を受けられるAクラスには将来性でも、そして学生生活を送るために必要な金銭代わりのポイントでも、最初から差がつけられていた。

 だったら、自分が引っ張ってAクラスを見返してやると、清隆がヒーロー然として立ち上がるのかというとそうではない。優秀な兄を持ち、自身も成績は優等だったが周囲への思いやりに欠ける点がネックとなって、Dクラスに配属された堀北鈴音という少女が、周囲を鼓舞してリーダー役のようになっていく。清隆はそんな鈴音をサポートするようなポジションにつく。

 矢面には立たない。それでいて、鈴音を誘導するようにしてクラスの動きに関わっていく。他のクラスが試験やイベントで仕掛けてくる謀略を見抜いて切り抜け、赤点を取ったら退学になってしまう試験を皆で乗り切るための策を講じる。そのような芸当を清隆ができるのは、ある施設で英才教育を受け、最高傑作とまで言われたスーパーエリートだった過去があるから。施設を逃げだし潜り込んだ高度育成高で目立たないようにするために、入試では手を抜きリーダーにもならなかった。

 ここぞという場面で実力の片鱗を見せたりすることで、周囲に清隆の"正体"に気づく者も出て来た。追っ手として高度育成校に入って来て清隆を退学に追い込もうとする計略も巡らされた。それでも清隆は、すべてをさらけ出して頂点に立つことはなく、追っ手の企みも退けて学園生活を乗り切っていく。

 こうしたキャラクターに着目して関心を寄せる感性が、日本には昔からあった。昼行灯に見えて凄まじい剣の腕前を持つ「必殺」シリーズの中村主水もそのひとりだが、古すぎるならアニメにもなった逢沢大介のライトノベル『陰の実力者になりたくて!』のシド・カゲノーが、次代のシャドウヒーローとして清隆の後に続いている。

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