人々の争いは原始の時代から紡がれてきたーー『ウナノハテノガタ』が問う、他者との出会いの意味

大森兄弟『ウナノハテノガタ』レビュー

 でもじゃあ、知らないほうがいいのだろうか。出会わない方がいいのだろうか。自分とは違う、未知の存在と。――そんなはずは、ないのだ。やがて激化していく争いのなかでオトガイが胸に抱いた後悔は、最初に生贄の少女と出会ったことではなかった。山の民と交流したことでもなかった。見せかけの幸せを守るために、ダンマリを貫き、みなから真実を――生と死の概念を覆い隠し続けてきたことだ。生贄の少女が敵とみなしていたのも、自分たちと価値観の違う海の民ではなく、全体の利益のために自分と我が子の命を奪おうとしてきた仲間のほうだ。

 出会えば、近づけば、争いが起きるから、殻に閉じこもったままでいる。……のではなくて、望まぬ出会いを果たしてしまったとしても、その出会いを後悔せずに済むように、争いの火種を抱えながらでも、一人でも多くの人たちが幸せであるように。手を取り合って生きていけるように。私たちは、自分と違うもの、平和を脅かすものから目を背けることなく、外の世界に旅立たなくてはならない。真の幸せはその先にあるのだと、寓話のようなこの物語を読んで、思う。

 なお、本書に出てくるとある人物の名前は、昭和後期と近未来を担当した伊坂幸太郎の『シーソーモンスター』にも登場する。数千年の時を紡ぐ壮大な物語の裏側で、作家たちがどのように語りあい、仕掛けを施すに至ったかの様子は、文庫版の本書に収録されているので、必読。

■書籍情報
『ウナノハテノガタ』(中公文庫)
天野純希 著
発売:2022年11月22日
価格:¥792
出版社:中央公論新社
螺旋プロジェクト 特設サイト:https://www.chuko.co.jp/special/rasen/

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