【独自考察】アニメ『邪神ちゃんドロップキックX』内容不適切!? 富良野市問題から浮上した「聖地巡礼」の幸せな結末

コラボの継続には地元の関係者が動くことが大事だ

ユキヲが描き下ろした「かがり美少女イラストコンテスト」のイラスト。羽後町の冬の風物詩である「花嫁道中」を題材にしている。ちなみに相乗効果で、地元の書店では『邪神ちゃん』の単行本がだいぶ売れたため、経済効果も大きかったのである。イラスト=ユキヲ

 私が主催している「かがり美少女イラストコンテスト」の7回目のチラシは、ユキヲに依頼して制作した。さらにコンテストの投票用紙も描き下ろしてもらい、あまりにかわいいのでずっと使っている。このイラストは地元で好評であり、地元の小学校、中学校、高校から公民館までとにかくあちこちに掲示された。

 このイラストを制作する際、私は題材になった「花嫁道中」の実行委員長や、長年関わっている関係者に挨拶に赴き、絵に間違いがないかどうかまでチェックを依頼した。私は東京でもイベントの企画などに関わるが、はっきり言って地方のほうが面倒なことが多い。人間関係を筆頭に、地域の歴史や風土に対する理解が求められるためである。ある企画が地域の「触れてはいけない」問題に触れてしまい、お蔵入りになったという例も聞く。だからこそ、下準備を入念に行うべきなのだ。

 『邪神ちゃん』はブラックユーモアが作品の面白さを高めているため、好き嫌いが分かれるのは仕方ない。「臓器売買を提案する」場面をいきなり見せられて、戸惑う気持ちも理解できる。だからこそ、アニメの趣旨や内容を説明するなど、十分な根回しが行われるべきだったと筆者は考える。そうしていれば、市議会の結果は違っていたのではないだろうか。

 市民に作品に親しんでもらうため、『邪神ちゃん』の単行本を図書館や公民館に設置したり、子どもたちを対象にイラストコンテストを開催してもよかったのではないか。こうした草の根的な取り組みを、地元の人々が自発的に行うかどうかが、聖地化の成功につながると言っていいだろう。

漫画家の生家が聖地化する例もある。富山県氷見市にある光禅寺は、今年亡くなった藤子不二雄(A)の生家。境内にはハットリくんなどキャラクターの像が立つ。写真=山内貴範
鳥取県境港の「水木しげるロード」は、漫画やアニメを活用した町おこしの成功事例の一つ。写真=山内貴範

ファンは聖地巡礼して富良野市を応援しよう

 富良野市で起こったまさかの事態に、『邪神ちゃん』ファンがネット上で様々な意見を書き込んでいる。私はここまで話題になったのであれば、宣伝効果は大きかっただろうし、今回のコラボは大成功だと思っている。しかし、Twitterを見ていると、一部のファンの行き過ぎた行動がかえって富良野市を委縮させてしまわないか、気がかりである。

 役場や議会に対し、「応援しています」「コラボを続けてください」などのメールであれば、積極的に送るべきだと思う。一番やってはいけないことは、感情的になって役場に抗議の電話をすることだ。また、「富良野市のイメージが悪くなりました」などの書き込みは控えたい。

 少なくとも富良野市議会の採決では、市長をはじめ、議会側も7対7で半数がこのコラボに賛成しているのだ。このことを忘れてはならない。騒動で富良野市のイメージが悪化することは、コラボを推進してきた関係者からすればもっとも残念なことだろう。コラボ企画は、地元の理解者の存在が欠かせない。関係者の心を傷つけることだけは避けたいものだ。

 また、最初は批判的だった人が後から意見を改め、応援団に加わることは、ご当地に限らずよくあることである。そのためには何をすればいいのか。一番の理想は、富良野を訪れて土産物店などで「邪神ちゃんのアニメがきっかけで富良野に来たんですよ」と言うなどして、ファンの声をじわじわと浸透させることだ。

『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地は各地にある。大分県玖珠町にある豊後森機関庫公園は、Aqoursの「HAPPY PARTY TRAIN」のPVに採用されたことで、聖地化している。隣接する「豊後森機関庫ミュージアム」には、ファンが寄贈したキャラクターのぬいぐるみが並ぶ。写真=山内貴範

 聖地巡礼は、アニメの制作者側、地元の関係者、そしてファンが一体となってこそ良い結果がもたらされる。先日、静岡県沼津市で『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地になっている「安田屋旅館」を訪問したが、旅館のスタッフとファンが一緒に語らい合い、盛り上がる光景があった。沼津を訪れた“ラブライバー”は、地元の人たちとコミュニケーションをとることで、作品が受け入れられる土壌をつくってきた。『邪神ちゃん』もこうなってほしいと、1人のファンとして願わずにはいられない。

 コロナ騒動も収束に向かいつつあり、日本を訪れる観光客も増加傾向にある。アニメは日本が世界に誇るコンテンツであり、『邪神ちゃん』のように、地方とコラボする事例は今後も増えてくるだろう。地域とアニメ、そしてファンが良好な関係を築く道はどのようなものなのか。様々な観点から議論がなされてほしいと思う。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる