「邪神ちゃんドロップキック」作者・ユキヲ「僕の漫画家生活にゲームは不可欠」 スマホゲーム全盛時代にレトロゲームで遊ぶ理由

 漫画家のユキヲはレトロゲームの愛好家である。ユキヲのTwitterのアカウント名を見てほしい。@PentarouXとある。

 勘がいい人、ゲームに詳しい人は気づいたかもしれないが、実はこれ、あるゲームのキャラクターの名前なのだ。先日、アニメの第3期の放映が終わり、漫画の単行本は19巻が発売中。いよいよ20巻に到達する『邪神ちゃんドロップキック』の連載を抱えるなど多忙を極めるユキヲだが、原稿の合間に遊ぶゲームがかけがえのない安らぎの時間なのだそうだ。

 そんなユキヲが最近ハマっているのは、スーパーファミコン(以下、スーファミ)のソフトである。スマホゲーム全盛の時代に、ユキヲがレトロゲームをプレイする理由はなんだろうか。飽くなきゲームの魅力をとことん深掘りしてみた。

ゲームの基板を買ってくれた父

――ユキヲ先生が子どもの頃は、ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)の全盛期ですよね。

ユキヲ:そうですね。僕はファミコンの世代でした。初めてはまったゲームは、初代の『スーパーマリオブラザーズ』や『ドンキーコング』ですね。幼稚園の年長生の頃にプレイしたのが最初だったと思います。

――幼稚園児の頃に遊んでいたんですか! 早い!

ユキヲ:小学生になってからもゲーム漬けです。その勢いは冷めることがなく、ゲーム熱は中学生くらいまでぐんぐん上がっていきました。そして、一気に伸びたのは『ストリートファイターII』です。何しろ、ゲーム基板を持っていたので、家でひたすらプレイしていたんですよ。

――ええっ!? それは凄い!

ユキヲ:凄いですよね(笑)。父が基板を買ってくれたんです。父は仕事で忙しくて家に帰れないことが多く、罪悪感があったのか、ゲームを買って喜ばせてくれることが多かったです。今と違い、この頃はまだ、ゲーセンは子どもにとって安全な場所とは言えなかったので、家にあった方がいいと考えて買ってくれたんでしょうね。

――なるほど。最近では、かつてゲーセンが不良のたまり場だった時代があるとか、もしかすると実感が湧かない世代も増えたかもしれませんね…… それにしても、基板があったら友達が家に押しかけそうです。

ユキヲ:ゲーム好きの親しい友人を数人、家に呼んで遊んでいました。ゲームは共通の話題になるし、格闘ゲームだと一緒に遊べるので、最高のコミュニケーションツールなんですよね。

こちらがゲームの基板。ソフトと比べるとあまりに無機質だが、男心をくすぐるメカメカしさがいい。写真提供=ユキヲ


――でも格ゲーって、勝ち負けで喧嘩になったりしませんか?

ユキヲ:友達とはならなかったけれど、ゲーセンでは喧嘩になるし、巻き込まれたことがあります。僕が圧倒的に勝ったとき、相手が筐体の向こうからずっとこちらを睨んできたこともあります。

――ユキヲ先生はゲーム、強そうですよね(笑)。

ユキヲ:基板を持っていたので家でひたすら練習できたし、とにかくゲームに狂っていたので、強かったと思いますよ。地元のゲームセンターでもたぶん一番強かったんじゃないかな。ちなみに、ストIIではガイルかケンを使っていましたね。

――ストIIといえば、春麗みたいなかわいいキャラがいるじゃないですか。ユキヲ先生はキャラのイラストを描くことはなかったんですか?

ユキヲ:その頃はイラストを描くよりも、ゲームをひたすらやり込んでいましたね。中学生の頃はゲーム三昧でした。学校行って、帰りはゲーセン、家ではスーファミと基板でストIIです。とにかく、なんでここまではまったのか自分でもわからないくらい、はまっていました。ゲームが上手いといわれると純粋に嬉しいし、楽しいんですよ。子どもの頃の熱い思いを今も持ち続けている人が、きっとプロゲーマーになっているんでしょうね。

ユキヲは現在もゲームの基板を蒐集。漫画を描く仕事部屋の棚には、基板がぎっしりと詰まっている。緩衝材でしっかりと包んで保管されている。写真提供=ユキヲ

『バーチャファイター2』は大人のゲームだった

――高校生になってもゲーム熱は健在でしたか?

ユキヲ:そうですね。高2の秋にあった修学旅行では、『スーパーストリートファイターIIX』が遊べなくて早く帰りたいと思っていたくらいですね。そして、高2の冬に『バーチャファイター2』が出たんですよ。この出合いは衝撃的で、高3のときはバーチャに狂いまくっていました。学校にいても家にいても、バーチャのことしか考えていなかったんです。

――受験生なのに(笑)! バーチャにはまった要因はなんでしょうか。

ユキヲ:一言でいえば、おしゃれだったんですよ。3Dのポリゴンは最先端のゲームのイメージでしたから、大人のゲームのような感じがしたんです。当時、学校にはバーチャ派と鉄拳派がいたんですが、僕はバーチャのほうが面白かった。というのも、ボタンが3つしかなく、ガードとPKのみのボタンを組み合わせて多彩な技を出せるところが凄いし、読み合いの要素が強くて面白かったです。もちろんストIIも突き詰めれば面白いんですが、当時の僕の感覚ではバーチャの方が戦略性が高く、新鮮味があるように感じました。

――アーケードゲームの攻略法はどうやって学んでいたんですか?

ユキヲ:『ゲーメスト』を読むんですよ。

――ああ、「インド人を右に!」のゲーメストですね(笑)。

ユキヲ:(笑)。『ゲーメスト』は休刊になる最後の号まで買っていました。ゲームセンターのゲームを攻略している唯一の雑誌でしたからね。僕が通っていたゲーセンって、上手い人の後ろに立って見ていると、怒られるような雰囲気もあったんです。だから、ゲーメストは教科書みたいなもので、自宅でひたすら勉強するんですよ。ゲーメストで勉強して、超えられない面を超えるという感じです。

――誤植ばかりを何かと話題にしてしまうゲーメストですが、当時のアーケードゲーム好きには必読の雑誌だったわけですね。

ユキヲ:でも、ゲーメストの誤植は、読んでいて「ん?」と気づきましたよ。有名な「確かみてみろ!」をリアルタイムで見て、爆笑したのは記憶しています(笑)。

――受験生なのにゲームに没頭したユキヲ先生ですが、しっかり大学に合格して、大学生になっています。

ユキヲ:大学生の頃はパチスロにはまってしまったので、アーケードゲームをあまりやらなくなったんですよ。でも、大学生の頃は『シスター・プリンセス』に出合って、イラストを描き始めたのは大きな出来事でした。シスプリとの出合いを機に、パソコンゲームや美少女ゲームにはまりましたし。それ以前にも『餓狼伝説2』の不知火舞や『サイコソルジャー』の麻宮アテナのようなゲームの女性キャラを描いたことはありましたが、意識して描くようになったきっかけは間違いなくシスプリです。

『電撃G’sマガジン』伝説連載『シスタープリンセス』の衝撃と魅力 漫画家・ユキヲが語る天広直人への葛藤からの脱却

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