【独自考察】アニメ『邪神ちゃんドロップキックX』内容不適切!? 富良野市問題から浮上した「聖地巡礼」の幸せな結末
アニメ『邪神ちゃんドロップキックX』の内容が不適切であると、北海道富良野市の議会で議論が紛糾したことで大きな議論を呼んでいる。北海道新聞の報道によれば、アニメの描写の中に「邪神ちゃんに借金があるため、臓器売買を提案するなど社会通念上許されない行為が多く」あったことが問題視されたのだという。
アニメの内容が市議会で議論に
「邪神ちゃんの富良野の件、どう思いますか?」
知り合いの記者からこう聞かれた。
個人的な話になって恐縮だが、私は大学生時代、2007年に故郷の秋田県羽後町で「かがり美少女イラストコンテスト」を開催し、2019年まで9回開催してきた。地元の西馬音内盆踊りという伝統芸能を題材にした美少女イラストを募るというものだった。
JAうご「美少女イラスト入りあきたこまち」などの商品開発にも携わったことがある。その仕掛け人として『クローズアップ現代』に出演したし、全国ニュースではたびたび紹介され、読売、朝日、毎日など主要な新聞にはほぼ掲載された(「東京スポーツ」や「しんぶん赤旗」にも私のコメントが掲載された)。
こうした試みを行ってきたため、記者から意見を求められることはいまだにある。リアルサウンドブックでも『邪神ちゃんドロップキックX』の原作者のユキヲのインタビューを3回掲載しているので、記者側からすると都合がいいのであろう。今回は自分の言葉でしっかりと考察をしたかったので、「リアルサウンドブック」でこうして記事を書いている。
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私は富良野市議会やアニメの制作側にも取材をしていないため、報道の内容だけを切り取って記事化することはここでは避けることにする。なので、私自身が地域おこし的な活動に関わった経験をもとに、地方でコンテンツを使ったビジネスをするうえでの課題を考察することにしたい。
聖地を作る、意欲的な試み
アニメ『邪神ちゃんドロップキックX』の制作側は、意欲的な試みを次々に実施している。そのひとつが、アニメの“聖地巡礼”を意識した取り組みである。これまでのアニメでは、制作側がたまたま使用した背景を見て、ファンがモデルになった場所を発見し、聖地巡礼する例がほとんどだった。それを見て、後から自治体がコラボを持ちかけていたのである。埼玉県久喜市鷲宮が舞台になった『らき☆すた』などは、その一例といえるだろう。
ところが、『邪神ちゃんドロップキックX』は初めから自治体と協力し、聖地を自ら作ろうとしているのだ。その一環で行われたのが、富良野市を舞台にしたアニメの制作であった。ほかにも帯広市、釧路市、南島原市ともコラボし、同様にアニメが作られている。今後の地方創生に、ヒントを与えてくれる興味深い事例であることは間違いない。
私はユキヲのファンなので、『邪神ちゃん』の漫画は1話がUPされたころから読んでいるため、こうした輪が広がっていくのは喜ばしいと思っている。しかし、自治体側とコラボして聖地を作るのは、一朝一夕ではいかないだろうなと感じたのも、また事実である。制作側がコラボを継続し、聖地として魅力あるものにしていこうと考えるのであれば、自治体や地元との緊密な連携が不可欠であると私は考えている。
『ラブライブ!』シリーズや、『君の名は』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の例を見ればわかるが、アニメがヒットした場合、その舞台になった町には数多くの聖地巡礼者が訪れる。経済効果は非常に大きい。だが、聖地巡礼はいわゆる観光地ではない場所が舞台になることも多く、私有地に無断で立ち入るファンが生まれるなど、観光公害が生まれている例もある。
それゆえ、聖地を作りたいと動くのであれば、受け入れ体制の整備が必須と言えるし、制作側には地元への説明と入念な根回しが求められる。特に、地方でビジネスや町おこしを行う際は、政治絡みの問題に巻き込まれることは避けられないと考えてよい。しかも、東京より遥かにややこしい、その土地ならではの利権があったりする。それを知らずに企画を始め、挫折した事業者を私は数多く見てきた。
そうした事態を防ぐために、地域の有力者への挨拶や面会を繰り返すなど、東京とは違った感覚でプロジェクトを進める必要がある。東京で成功したビジネスモデルが、地方ではほぼ通用しないと断言していい。人間関係や政治を無視して取り組むとしっぺ返しを喰らうのが、地方なのである。