“VR小説”は特殊設定ミステリーとの合体技で新たな鉱脈に? 『クリス・クロス』から『SAO』まで、その変遷を追う

「VR小説」の変遷とこれから

 バーチャルリアリティ(以下、VR)を題材とした作品の歴史は意外と古いが、日本で広く知られるようになったのは、高畑京一郎の『クリス・クロス 混沌の魔王』の登場によってであろう。第一回電撃ゲーム小説大賞の金賞受賞作だ。

高畑京一郎『クリス・クロス 混沌の魔王』(電撃文庫/KADOKAWA)
高畑京一郎『クリス・クロス 混沌の魔王』(電撃文庫/KADOKAWA)

 世界最大最速の電子頭脳「ギガント」を使った、256人が同時接続できるVRゲーム「ダンジョントライアル」が公開された。主人公のゲイルは、このVRゲームに参加したプレイヤーのひとりだ。最初は仮想現実のゲーム世界を楽しんでいたゲイルたちだが、ある人物の思惑により、予想外の事態に向かっていくことになるーーという設定は、現在ではありきたりなものだろう。しかし本書は、日本初のVRゲームを舞台にした、記念すべき小説だ。また、ストーリーも面白く、今でも読む価値がある。

 出版当初、それなりに話題になった『クリス・クロス 混沌の魔王』だが、それに続く作品は散発的だった。第三回ホワイトハート大賞「エンタテインメント小説部門」優秀賞を受賞した、町井登志夫の『電脳のイヴ』のような優れた作品もあったのだが、注目を集めるまでには至らなかった。やはりVR技術そのものが、まだ一般的ではなかったことが大きいだろう。

川原礫「ソードアートオンライン」シリーズ(電撃文庫/KADOKAWA)
川原礫「ソードアートオンライン」シリーズ(電撃文庫/KADOKAWA)

 そのような状況が一変する要因になったのが、2009年に刊行された『ソードアートオンライン1 アインクラッド』から始まる、川原礫の「ソードアートオンライン」シリーズである。本書の「あとがき」によれば、2002年の電撃ゲーム小説大賞に応募するため、生まれて初めて書いた長篇小説だそうだが、曲折を経て、電撃文庫から出版されたのである。結果論になるが、この数年のタイムラグは正解だといえるだろう。なぜならインターネットの発達によるオンラインのMMORPG(編集部注:多人数が同時参加するオンラインRPG)の普及と、VR技術の進歩により、VRゲームが多くの人にイメージしやすくなっていたからだ。

 さらに本書で留意すべきは〝デスゲーム〟というアイデアである。世界初のVRMMO「ソードアートオンライン」の正式サービスが開始され、約一万人のプレイヤーがログインをした。だが、この仮想世界を創り上げた量子物理学者にして天才ゲームデザイナーの茅場晶彦により、プレイヤーはゲーム世界に閉じ込められてしまった。ゲームの舞台になっている巨大浮遊城「アインクラッド」を最上階までクリアすれば脱出できる。しかしゲームオーバーになれば、アバターのみならず、実際のプレイヤーも死んでしまう。この絶望的な状況で、ある理由からソロプレイヤーをしているキリトは、最上階を目指す。

 波乱に富んだストーリーや、ゲームシステムとリンクした戦闘シーンなど読みどころは多いが、やはりデスゲームであることが、物語に緊張感を与えている。このシリーズのヒットにより、VR世界を題材にした作品が増加。特にインターネットの投稿小説で、爆発的に増えた。

 このような作品の増加が、ジャンルのフォーマットを強固にする。作者側と読者側の共通認識が深まったのだ。その一方で、物語にバラエティが生まれる。デスゲームものの他にも、VRゲームの世界に人知を超越した存在を持ち込んだ作品は少なくない。プレイしていたVRゲームとそっくり、もしくはよく似た異世界に行ってしまう異世界ファンタジーもある(これに関しては、橙乃ままれの「ログ・ホライズン」シリーズの影響が大きい)。もちろん単にVRゲームをプレイしている作品もある。多彩かつ豊潤なジャンルへと成長したのだ。

 さらに小説をもとにした、コミカライズやアニメ化も行われている。最近のヒットといえば、硬梨菜のネット小説を、商業出版を経ずに直接コミカライズした『シャングリラ・フロンティア ~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』だろう。クソゲー大好きな主人公のサンラクが、たまたま始めた神ゲーといわれるVRゲーム「シャングリラ・フロンティア」で大暴れをする。

 この手の作品は、やたらと主人公プレイヤーだけが謎の優遇を受け、読んでいるとしらけることがあるが、本書はその点を巧みに回避。最初の方でゲーム上のマイナスな制約を与えられたサンラクが、クソゲーで鍛えた能力を駆使して困難を乗り越えていく。この展開が考え抜かれているのだ。また、不二涼介の作画が素晴らしく、原作のアクションを的確に表現している。ここまで面白ければ、ヒットするのも当然だ。



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