江戸時代のカリスマ編集者・蔦屋重三郎、旅行ガイド本で一躍有名に ベストセラー『吉原細見』はどんな本?

(左から)『蔦屋重三郎と粋な男たち!』(櫻庭由紀子/著、内外出版社/刊)『これ1冊でわかる! 蔦屋重三郎と江戸文化』(伊藤賀一/著、Gakken/刊)

■江戸のインフルエンサー・蔦屋重三郎

 2025(令和7)年1月5日から、いよいよNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』がスタートする。主人公は蔦屋重三郎(以下、蔦重)で、横浜流星が演じる。蔦重は江戸時代を代表する版元であり、経営者、出版プロデューサー、編集者であった。その人生はまさに波乱万丈と言っていいもので、どのようにドラマで描写されるのか、今から楽しみである。

  そんな蔦重が版元として発行した本の一つが、江戸の遊郭・吉原のガイドブック『吉原細見』だ。もともとはライバルの版元・鱗形屋孫兵衛によって刊行されており、蔦重はそれを自身の書店で販売する立場だったが、やがて自身が編集・販売を手掛けるようになった。『吉原細見』の版元になったことが、蔦重が躍進するきっかけになったといわれる。

  いったい『吉原細見』とはどんな本だったのか。現代で例えるなら「るるぶ」や「まっぷる」のような本といえばわかりやすい。ページを開くと吉原の地図上に店名が示されており、どんな店にどんな遊女がいるのかといった情報が検索できるようになっている。究極の実用書であり、吉原で遊びたい人たちにとっては無くてはならない本だったのである。

■発明家・平賀源内が原稿執筆

  ところで、鱗形屋はなぜ売れ筋だった『吉原細見』の編集権を手放したのであろうか。その理由の一つに、情報の更新が追い付かなかったことが挙げられる。吉原では遊女の出入りが激しいうえ、店の入れ替わりも早かったため、常に情報を加筆修正しなければいけなかった。現代のガイドブックも情報の更新に苦労するが、当時の編集者も大変だったことだろう。

  鱗形屋の『吉原細見』は古い情報がそのまま載っていることも多かったといわれ、おそらくクレームも多かったはずである。そこで、吉原で生まれ、幅広い人脈をもつ蔦重が編集・販売を担うことになったというわけだ。しかも、蔦重の書店「耕書堂」は吉原の入口にあたる大門のすぐそばにあった。吉原を訪れた人たちは、必然的に蔦重の店の前を通ることになる。本が爆売れしたのは、当然だったと言えるだろう。

  さらに、蔦重は『吉原細見』を単なるガイドブックでは終わらせなかった。序文を、かの平賀源内に執筆依頼したのである。源内といえばエレキテルを開発した江戸を代表する発明家であり、蘭学者であり、浄瑠璃作家でもあり、男色家としても有名であった。まさに、現代のマルチタレントのような人物だ。そういった人物に序文を担当させ、読み物として面白い本に仕上げている点も蔦重の創意工夫であった。

  『吉原細見』は地方から江戸を訪れた人たちに、お土産としても好まれた。吉原は江戸を代表する観光名所であり、一種のテーマパークのような場所であった。地方の人たちにとっては一度は訪れてみたい名所だったといわれる。地方の人たちは『吉原細見』を手に取り、いつか行けたらいいな、どんな場所なんだろうなと、妄想を膨らませていたに違いない。まさに江戸の出版文化を語るうえで欠かせない本なのである。

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