主人公は半裸で鳥頭!? 異例尽くしの『シャンフロ』が急発進した理由

異例尽くし『シャンフロ』急発進の理由

 小説投稿サイトの「小説家になろう」発で、ゲームの世界に飛び込み現実とは違うバトルや冒険、そして新しい出会いをもたらしてくれるストーリー……そう問われれば、夕蜜柑『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います』(カドカワBOOKS)や、海道左近『<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-』(HJ文庫)など、浮かぶ作品が幾つもある。

 硬梨菜の『シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』もそんな作品のひとつだが、展開においても内容においても数々の異例があって、驚きを誘っている。

 10月16日に講談社から出た、硬梨菜原作で不二涼介作画のコミカライズ版『シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~1』が、発売から2週間で10万部を超えた。1週間で重版も決定したとのことで、さっそく人気声優の佐倉綾音が伝える重版バージョンのPVが流され始めたが、この動きがまず速過ぎる。重版がかかると確信して、あらかじめ録っていたというのだから凄い自信だ。

 「小説家になろう」連載時から『シャンフロ』が、高い支持を集めていたことが自信の根拠にあるのだろう。川原礫『ソードアート・オンライン』(電撃文庫)も含めてVRMMOものは人気のジャンルでもある。逆に言えば競争も激しいジャンルだが、主人公の設定も異色なら、展開の濃密さも半端ない『シャンフロ』は、熱い読者を得て高い閲覧数をたたき出していた。

 陽務楽郎(サンラク)という高校2年生の少年が、「シャングリラ・フロンティア」というゲームを始めるところから幕を開けるストーリー。普段はクソゲーと呼ばれる評判の芳しくないゲームを中心にプレイし、攻略することでゲームの腕を鍛え上げていたが、一段落がついたことで優れたバランスやストーリーを持った神ゲー「シャンフロ」を試してみることになった。

 ここで硬梨菜は、「シャンフロ」内でサンラクが扱うキャラクターを、半裸で鳥のマスクを被った男にしてしまった。キャラを作る段階で装備を売れば、他よりも多くの所持金を持ったままプレイに入れるから、というのが半裸の理由。それで顔出しは恥ずかしいので、覆面を探したら鳥しかなかった。どんな顔立ちなのだろう。そう思わせて読者の興味を引きたかったのかもしれないが、そこに作画の不二亮介が描いたビジュアルがインパクト大だった。

 鳥と言ってもタカとかハトとかではなくハシビロコウ。日がな一日立ち続ける胴体に乗った、目つきの悪さと嘴の巨大さで知られる鳥の頭が、人間の胴体を持ってゲーム世界で暴れ回るのだから、これは想像を超えた光景だ。ネットで読んで情報は得ていても驚くビジュアルで、コミカライズ版が所見なら唖然として見入ってしまう。

 そんな濃すぎるキャラが、両手に剣を持ちパンツいっちょうで走り回る姿には、『SAO』のキリトや『防振り』のメイプルのような格好良さや可愛らしさはない。にも関わらずネット小説が読者を引きつけ、今またコミカライズでファンを大きく増やしたのは、クソゲー攻略で培った勝つためのスキルと経験をぶち込んで、サンラクが「シャンフロ」の世界を裸一貫から成り上がっていく描写に、ち密な戦略性にのっとった強さが感じられるからだろう。

 主人公キャラの見た目の異色さと、実際の強さといったギャップ、そして強大な敵を相手にしたバトルの激しさを、より強く感じさせるという意味で、「小説家になろう」での連載小説をまず書籍として刊行することなく、いきなり「週刊少年マガジン」でのコミック連載に行ったことも、急発進の理由にありそう。

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