『スピリッツ』編集長が語る、“アンケート至上主義”ではない理由 「編集者がおもしろいと思ったものが人々の心を打てる」

『スピリッツ』編集長インタビュー

 1980年の創刊以来、「青年漫画」のジャンルを牽引してきた雑誌『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)。『めぞん一刻』、『軽井沢シンドローム』、『東京ラブストーリー』、『YAWARA!』、『美味しんぼ』、『伝染るんです。』、『クマのプー太郎』、『サルでも描けるまんが教室』、『ギャラリーフェイク』、『月下の棋士』、『ピンポン』、『最終兵器彼女』、『闇金ウシジマくん』、『高校アフロ田中』、『アイアムアヒーロー』、『あさひなぐ』……と、いちいち挙げていてはキリがないのでこの辺でやめるが、これまで、ご覧のとおりの、漫画史に燦然(さんぜん)と輝く革新的な作品の数々が同誌から生み出されてきた。そしてその「新しい漫画を作りたい」という編集部の精神(スピリッツ)は、いまも変わらないし、これから先も変わることはないだろう。

 そこで今回のインタビューでは、昨年、創刊40周年を迎えた同誌の石田貴信編集長に、他の漫画誌との違いや、「おもしろい」と思うエンターテインメントの形、また、編集長としてこれから目指す雑誌のあり方などについて、熱く語っていただいた。(島田一志)

心のエネルギーの源となるような作品を

――まずは昨年の創刊40周年、おめでとうございます。

石田:ありがとうございます。読者や作家の皆様をはじめ、これまで関わってくださった多くの皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。

――石田さんが『ビッグコミックスピリッツ』(以下『スピリッツ』)の編集長に就任されたのはいつですか?

石田:昨年(2020年)の10月です。いまはコロナ禍でいろいろとたいへんな時期ではありますけど、こんな時だからこそやれることもあると思いますので、「先」を見据えてがんばっているところです。

――もともと石田さんは『スピリッツ』ではなく、長いあいだ『ビッグコミックスペリオール』の編集部に在籍されていたそうですね。その頃の、つまり、現場の編集者だった時代の代表作を教えてください。

石田:思い出深い作品はたくさんありますが、『医龍―Team Medical Dragon―』(乃木坂太郎・永井明)、『幽麗塔』(乃木坂太郎)、『響―小説家になる方法―』(柳本光晴)といったあたりが、みなさんがよくご存じの作品かもしれません。

 いまは連載を直接担当することはありませんが、編集長としてこれまで通り、読者の皆様に心のエネルギーの源となるような作品を届けられるよう、一生懸命であろうと思います。

新しい息吹、新しい精神(スピリッツ)を

――さて、ここから本題に入ろうと思いますが、『スピリッツ』の創刊は1980年の10月ですね。創刊時は月刊誌でしたが、そののち隔週刊の時代を経て、1986年には週刊化されました。創刊当時の石田編集長は中学生くらいの年齢だったかと思いますが、編集長になるにあたって、創刊のきっかけやいきさつみたいな話は聞いていますか?

石田:昨年刊行された漫画家本SPECIAL『スピリッツ本』という本の中で、創刊編集長の白井勝也が当時の様子を詳しく語っています。興味のある方はそちらも併せてお読みいただきたいと思いますが、簡単にお答えすれば、当時、先行して出ていた青年誌である『ビッグコミック』(1968年創刊)の読者の年齢が徐々に上がってきていて――つまり、同誌の読者と『少年サンデー』の読者のあいだに、年齢的な空白ができつつあったようなんです。それで、そのあいだをつなぐ新雑誌を作ろうという意図があったようです。

 もちろん、それ以前に、白井としては単純に自分たちが読みたいと思える新しい雑誌を立ち上げたいという気持ちも強かったみたいで、その情熱と行動力は、同じ編集者として大変尊敬しています。

――同時期に、他社でも『ヤングジャンプ』(集英社)と『ヤングマガジン』(講談社)が創刊されていることを考えてみても(前者は1979年、後者は1980年創刊)、その頃に新しい世代の漫画読者が誕生していたともいえますね。ちなみに、『スピリッツ』の創刊号の表紙のアオリには、「ニューパワーを結集して第3のビッグここに誕生!!」とあります。

石田:少し補足しますと、「第3の」というのは、『ビッグコミック』と『ビッグコミックオリジナル』(1972年創刊)に続いて、という意味です。白井によると、『スピリッツ』という誌名には、『ビッグコミック』の名を借りるからには、そこにさらに「新しい息吹、新しい精神」を注ぎ込まねばならないという想いが込められていたようですね。それとある種の「反骨精神」も。

――『スピリッツ』が他の漫画誌と違う点を教えてください。

石田:アンケート至上主義ではないということでしょうか。小誌では、編集長や現場の編集者たちがおもしろいと思っている作品については、アンケートの順位が低いという理由だけで、途中で打ち切られることはありません。編集長が変われば雑誌のカラーは変わるものですが、これについては40年間一貫している編集方針かもしれませんね。

――「おもしろい」とは、具体的にはどういうことですか?

石田:何がどうおもしろいのかを言葉で説明するのは難しいことですし、「おもしろさは人それぞれ」としかいいようがありません。ですから、これはあくまでも私の個人的な意見です、というのを前提にお話ししますが、個人的に一(いち)編集者としてずっと意識してきたのが、「アンチであれ」というテーマです。アンチとは、世の中に対する疑問や不満、反抗心のようなものですね。それを病院を舞台にして描けば『医龍』になりますし、同調圧力やSNS社会に目を向ければ『響』になるわけです。

 それと人間ドラマを追求することも大事だと思っています。そのためには、人間というものの探求が編集者にとっても必要で、時代によって変わらないもの、現代(いま)だからこそのもの、どちらの視点も大切だと思います。

 個人的に好きなストーリー形式のひとつは「仲間が集まっていく物語」です。たとえば、黒澤明監督の『七人の侍』も、映画の序盤でアウトローめいた侍たちがひとりずつ集まっていく過程がおもしろいわけですし、スポーツ漫画の名作の数々も、主人公を中心にチームが作られていくまでのエピソードを最初の山場に持ってきている場合が多いでしょう。

 それとだいぶ話が逸れますが、「日曜劇場」の枠で放送されているドラマはおもしろいですね。負けたくないという気持ちになります。

――ドラマといえば、『スピリッツ』の作品は、昔から映像化されることが多いですよね。アニメ化される作品ももちろんありますが、どちらかといえば、実写のドラマ化や映画化の印象が強いです。一世を風靡した『東京ラブストーリー』をはじめ、『美味しんぼ』、『あすなろ白書』、『ピンポン』、『20世紀少年』、『闇金ウシジマくん』などなど……。近年でも、『あさひなぐ』や『健康で文化的な最低限度の生活』、『映像研には手を出すな!』、『ホムンクルス』などが話題になっています。

石田:それはおそらく、そうした小誌で連載された(されている)作品の多くが、「時代の空気」をうまく捉えてきたからだと思います。映画やテレビドラマというものには、モロにそれが反映されますから。私としては、これから先も漫画作品と映像作品の作り手が、お互い良い形で刺激し合って、エンターテインメントの世界を盛り上げていければいいと思っています。

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