町へ出られないコロナ禍に、寺山修司を探す旅へ出よう 生誕85周年記念復刊『寺山修司記念館』

生誕85周年・寺山修司を探す旅へ出よう

 寺山修司はいつだって、名もなき観客の味方だ。「私たちはどんな場合でも劇の半分しかつくることができない。あとの半分は観客が作るのだ!」とあるように、寺山は、作品の半分を完成させる権利を私たちにくれた。だから没後37年経った今でも、彼の作品は生き続け、彼のファンは増え続ける。

 現在、寺山の詩や短歌は教科書にも登場し、藤原竜也のデビュー作としても知られる舞台『身毒丸』や美輪明宏主演の舞台『毛皮のマリー』などは新しい俳優たちによって今も新しい命を吹き込まれ続けている。また、デビュー時の三上博史や高橋ひとみの初々しい姿を垣間見ることができる映画『草迷宮』や『上海異人娼館』、『さらば箱舟』の幻想的でエロティックな世界は、ほかの追随を許さない。そしてそれらの作品を通して寺山修司に夢中になったファンの多くが、「寺山探し」の旅の末に寺山修司記念館に辿りついてしまうのである。

 本書は、その寺山修司記念館のほんの一部に過ぎない。記念館に所蔵されている膨大な資料を隅々まで読みふけることのできる本書は、寺山修司ファンとしては垂涎ものではある。だが、本当の魅力は「書を捨てよ、町へ出よう」という彼の言葉のように、町へ出なければ、彼の足跡を、作品を辿って見なければわからない。

 とはいえこのコロナ禍である。そんな言葉を言うことさえ憚られる時代がきてしまった。もし現代に寺山修司が生きていたら何と言っただろう。なにをやっただろう。そんなことを思いながら、せめて本で、寺山修司を感じたいと思うのである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■書籍情報
『寺山修司記念館』
監修:笹目浩之
出版社:トゥーヴァージンズ
発売日:2020/7/14
本体価格:2,800円
出版社サイト

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