Payaoの詩集『僕らは、抱き合いながらすれ違う』の魅力 生きていることを実感する「救い」としての「詩」
■なぜ、SNS時代の若者にも人気?
SNSに投稿した詩が若い世代を中心に絶大な人気を集める詩人・シンガーソングライターのPayaoが、新詩集『僕らは、抱き合いながらすれ違う』(ポエムピース)を刊行した。2020年以来X(旧Twitter)で反響の大きかった詩をはじめ、30篇の選りすぐりの作品が収録されている。
本書のテーマは「失くしたことで気づける愛」。冒頭で最愛の女性の喪失が示唆された後に、二人で過ごしたかけがえのない日々が回想される。静かな海辺で一緒に貨物船を眺めたこと、渋谷で映画を観た後に好きな台詞を語り合ったこと。そんな出来事を思い起こしながら、もう遠くの世界へ行ってしまった彼女に語りかけるような言葉が添えられる。「人を好きになるって怖いね」「目が合う心強さには/目を逸らす臆病さも含まれていて」「取り合った手の温かさは/ちゃんと別々の身体だからで」。幸福な時間だったからこそ、それが失われてしまった悲しさが同時に伝わってくるのだ。
Payaoの紡ぐ言葉の魅力は、スマートフォンで打ち込んだかのような身近な言葉の羅列の中で、他の形式では表現し得ないような詩的感覚が随所に差し挟まれることだ。だから読者はまるで自分自身が経験した出来事に、新たな言葉が与えられるようにも感じる。特に「さよなら」「約束」「出口」など、多義的に解釈できる言葉にぶつかると、読む速度を落としてじっくりと味わいたくなるはずだ。
巻末では「詩を書くこと」に対する自身の思いが語られているが、Payaoは「言葉で思いを伝えることはできない」という逆説の上で、生きていることを確かめるために詩を書くのだという。言葉は儚く脆いものであると同時に、人間にとって唯一の救いとなるものなのだと思わせられた。
本書にはPayaoが撮影した写真も合わせて掲載されているが、写真はどれもおぼろげで美しい。本の表紙中央では、インスタグラムの画像のように正方形に縁取られた写真の中で、背を向けた女性が遠くの海岸線を眺めている。他に掲載された写真も女性はいつも向こう側を向いていて、どこか別れの気配が漂っている。一方、金木犀など植物の写真も多く掲載されているが、それはまるで季節が移ろい、時間が経過していくことの残酷さを表しているようだ。
本書作中で描かれた喪失と絶望は底知れないものかもしれない。しかし、読後感は必ずしも沈鬱なものではない。例えば、終盤の「まぁいいや、/僕は君と出逢えたんだ」「愛すべきこの世界を/見つめながら/私は歩いていく」という言葉に出合うと、読者は救われるような思いを抱くはずだ。
リアルサウンドブック掲載のPayaoインタビューによれば、生きていく上で大事なのは「自己肯定」ではなく「自己受容」だと感じているという。何でもポジティブに捉えるべきだという考えは、ときに重荷となって自分を追い込んでしまう。そうでなくともいいのだと、自分を受け入れていくこと。そんな受容の過程が体現された本書を手に取れば、読者もまた、新たな道を歩んでいく力をもらえるだろう。
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