『舞いあがれ!』でコロナ禍が描かれた意義 高杉真宙の言葉が3年間の苦しみに寄り添う

『舞いあがれ!』でコロナ禍が描かれた意義

 3月13日から新型コロナウイルス対策としてのマスク着用のルールが変わり、外でも素顔を見せて歩く人が増えた。音楽ライブ会場やスポーツ観戦では声出しが解禁に。桜の名所でも4年ぶりに飲食や飲酒を伴う花見宴会が可能となり、至るところで人々の楽しげな声が響く。

 最終週が放送中の『舞いあがれ!』(NHK総合)は、私たちが今まさに抜けようとしている長いトンネルに突入。2020年に幾度となくロックダウンが施行されたフランスと、緊急事態宣言が発令された日本での、舞(福原遥)や貴司(赤楚衛二)たちの会いたい人に会えない、行きたい場所に行けない生活が描かれる。そこには、どんな意味があるのだろうか。

 未知のウイルスが日本でも流行し始めた頃、朝ドラとしては窪田正孝が主演、二階堂ふみがヒロインを務める『エール』(NHK総合)の放送がスタート。本作は作曲家・古関裕而の生涯をモデルにどんな時代も人の心に寄り添い続けてきた音楽の力を描き、改めて東日本大震災で被害に遭った地域や人々、やがて始まる2020年東京五輪の選手にも“エール”を送る予定だった。

 しかし、コロナの影響で史上初となる大会の延期が決定。ドラマの撮影も一時中断となり、2カ月以上の放送休止に放送回数の縮小も余儀なくされた。何より出演者の一人、志村けんさんという稀代のエンターテイナーを失ったショックと悲しみは計り知れないものがある。それでもなお、こうした困難を乗り越えて本作は私たちに感動と笑いを届けてくれた。そのこと自体が先の見えない不安に怯える人々を勇気づけたことは間違いない。

志村けんさんとの別れに撮影中断 未曾有の事態を乗り越えた、朝ドラ『エール』への賛美

『エール』という力強く前向きなタイトルで始まった、第102作目のNHK連続テレビ小説が最終回を迎え、異例の長期放送を終えた。新型…

 また、『エール』はコロナ禍に突入した当初、不要不急のものとして扱われた音楽の素晴らしさを実感せざるを得ないストーリーだったのも印象深い。続く杉咲花主演の『おちょやん』(NHK総合)では、昭和の名優・浪花千栄子をモチーフにヒロイン・千代の波乱万丈な半生が描かれたが、そこでも“生き甲斐”としての芝居が強調された。音楽や演劇などのエンタメは、戦争や災害、感染症の拡大といった緊急事態下ではどうしても軽く見られがちだ。しかし、本当はそういう時にこそ、我々は生き延びる上で心を満たしてくれるエンタメを必要とする。2作品を通して朝ドラはそう主張すると同時に、お茶の間に毎朝元気を与え、その事実を証明してくれた。

『おかえりモネ』最終回で描かれた希望と願い 清原果耶×坂口健太郎の抱擁は未来の象徴に

東日本大震災を背景とした『おかえりモネ』(NHK総合)に、一つ答えを見出すとすれば、それは「許す」ということだと思う。相手を、過…

 清原果耶演じる、気象予報士を目指すヒロイン・百音の物語『おかえりモネ』(NHK総合)では、リアルタイムにコロナ禍での生活が描かれた。そこで、気仙沼で暮らす百音と東京にいる恋人の菅波(坂口健太郎)が会いたくても会えないという試練に見舞われることとなる。しかし、もともと2人は恋人だからといって、物理的な距離の近さにこだわっていなかった。「一緒にいるって、どういうことでしょう?」という百音の問いかけに対する菅波の「一緒に2人の未来を考えるってことじゃないですか」という答えは、きっと同じように会いたくても会えない人がいる誰かの心に響いただろう。そして、ようやく再会を果たした百音と菅波がお互いを抱きしめ合い、ゼロ距離になるラストで、本作は希望のある未来を私たちに見せてくれた。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)、『ちむどんどん』(NHK総合)でも、同じように放送時期より先の未来が描かれたが、そこにはいつもノーマスクで笑い合う人々の姿がある。

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