俵万智が語る、『舞いあがれ!』妄想短歌への反響 “貴司”赤楚衛二にアドバイスするなら?

俵万智が語る、『舞いあがれ!』短歌への反響

<デラシネで うめづで 夜の公園で 好きって君に 伝えたかった>

 『サラダ記念日』で知られる歌人の俵万智が、NHK朝ドラ『舞いあがれ!』に登場する貴司(赤楚衛二)の気持ちを代弁して詠んだ歌だ。

 3月31日に最終回を迎える『舞いあがれ!』(4月1日は1週間の振り返り)では、主人公・舞(福原遥)の幼なじみで夫の貴司が詠む短歌がテーマの一つになっている。俵がTwitterで作中に登場する短歌の解説を始めると、反響が反響を呼び、“非公式応援歌人”と呼ばれるようになった。

 想像以上の反響に驚いているという俵に、歌人の視点から見た貴司の短歌や『舞いあがれ!』への思い入れについて聞いた。

他人事とは思えなかった貴司の歩み

ーーNHKの公式イベント「舞いあがれ !感謝祭」に出席されるそうですが、どのような経緯で参加が決まったのでしょうか?

俵万智(以下、俵):お話をいただいたときは、本当にびっくりしました。「最初から仕組まれてたんじゃないの?」とか言われるんですけど、全然そんなことなくて、本当に勝手にTwitterで感想を呟いていただけなんです。そこから、こういうSNSの時代ならではの広がりが生まれたことを制作者の方も喜んでくださって、「よかったらいらっしゃいませんか」と誘っていただきました。だから、私からすると妄想が現実を連れてきた感じで、生きているとこういうことってあるんだなと思いました。イベントに脚本家の桑原(亮子)さんもいらっしゃるそうなので、全然面識はないんですけど、うざくなかったか聞きたいなと思っています。

ーー以前から朝ドラはご覧になっていたんですか?

俵:全部ってわけじゃないんですけど、小さい頃は『鳩子の海』や『おしん』を観ていたし、『瞳』とか『あまちゃん』とか、折に触れて自分の興味関心に触れそうな作品は観ていました。

ーーでは、『舞いあがれ!』もその流れで?

俵:そうですね。私は石垣島で5年間息子と暮らしていた時期があるので、『舞いあがれ!』の序盤に描かれた五島での子育ては、すごく自分の経験とリンクする部分がありました。島には地域のみんなで子どもを育てる土壌があって、実際息子の通っていた小学校でも、都会の学校に馴染めなかった子が転校してきて元気になったという話を聞いたりしました。

ーーまさに舞(幼少期:浅田芭路)や朝陽(幼少期:又野暁仁)ですね。

俵:舞ちゃんのような子に対しても、他の子たちが腫れ物に触るような感じではなく、自然体で接しているのがすごく島らしいなと思いました。

ーー貴司が短歌と出会う展開は、どうご覧になりましたか?

俵:初めは、五島や航空大学校の様子に興味があって観ていたので、途中で短歌が登場したときはびっくりしました。八木のおっちゃん(又吉直樹)が、貴司くんに息ができるようになる1つの方法として、短歌を手渡した場面がすごく素敵で、「この子に絶対短歌を作ってほしい!」と思っていたので、本当に歌人になってからはもう他人事とは思えないような気持ちで観ていました。

ーーそんな貴司が、第25週では「もうこういう歌は詠めません」と苦悩していましたが……。

俵:やっぱり第一歌集というのは、神様からの贈り物みたいなところがあって、それまでの人生が全部詰まったものなので、すごく力のあるものになるんですよね。そして第一歌集でスタートを切った人は、勢いで第二歌集くらいまでは出せるんですけど、第三歌集になるととても難しいんですよ。だから私は、「貴司くん、無理せんでええ」と思って見守っています。それでも、出版社の方からしたらせっかく第一、第二と売れているわけだから、この勢いで第三歌集も……という感じになりますよね。でも、無理して作っても良いものはできませんから、自分を見失わないでほしいなと思います。

ーー貴司が短歌を詠めなくなったのは、子どもが生まれて生活に変化があったことが影響しているのでしょうか?

俵:私の場合は、子どもが生まれたことで歌作りの原点に戻れたようなところがあって、貴司くんも子育てをすごく頑張っているから、そういうところを詠むっていうのも一つの手だと思うんですけど、観ているとそういう感じでもなさそうですよね。やっぱり貴司くんの場合、原点といえば旅になるのかな。ドラマではあまり出ていないですけど、子どもたちに短歌を教えながら全国を回るっていう仕事をリュー(北条)さんとやっていたはずなので、そういう旅先での歌が、第二歌集あたりに入っているのかなと勝手に妄想しています。私も昨年末に取材で長崎の小学校に行ったんですけど、授業の様子があまりにかわいらしくて、飛び入りで短歌の授業をさせてもらったんです。子どもたちは、五音七音に乗せると言葉の調子が良くなるので、喜んで歌を作ってくれて、「なんかあれちょっと貴司くんっぽかったな」と思い出しました。

ーーリュー北条(川島潤哉)はどんなイメージですか?

俵:最初はなんだか怪しくて、「この人から貴司くんを守らなあかん!」ぐらいに思っていたんですけど、実は彼なりに美学があって、古典の知識もあることがわかってきて、すごくいい味を出していると思うようになりました。だから、最近はタイトルバックに「リュー北條」っていう名前があるとちょっと嬉しいんです。

ーー歌人と編集者の関係というのは、あれぐらい密なことがあるんですか?

俵:どうでしょう。どちらかというと、リューさんは「小説の編集者ってこんな感じかな?」と私がイメージしていたタイプの人ですね。短歌の場合は、あそこまで作るところから関わる人は珍しいような気がします。

ーープロの視点から見て、貴司の作る短歌に特徴的なところはありますか?

俵:貴司くんは、星とか海とか自分に身近な自然をよく比喩に使っていますよね。最初に五島で作った短歌はすごく素直で気持ちが伝わる歌でしたけど、若干肩に力が入っているのが初心者っぽくて、“あるある”っていう感じがしました。そこから貴司くんが成長していくにつれて、歌の完成度もだんだん上がっているのが、桑原さんのすごいところだと思います。私もちょっとお遊びで、作中人物がもし短歌を作ったら、と妄想しながら作っていましたけど、どうしても自分の歌になってしまうんですよね。

ーー俵さんがTwitterに投稿されていた久留美(山下美月)の短歌が素敵でした。

俵:ありがとうございます。久留美ちゃんの短歌はすごく評判が良くて、私自身も気に入っています。<大切な友と友とが結ばれて 嬉しくて泣く、寂しくて泣く>っていう歌は、親友同士が結婚した久留美ちゃんの気持ちとして読んだんですけど、これはドラマから離れても一首として成立するかなと思いました。

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