高橋克典が教えてくれた支え合うことの大切さ 『舞いあがれ!』で作品全体の父親役担う

『舞いあがれ!』高橋克典が教えてくれたこと

 半年間の放送を終えようとしているいま、これまでのすべてが一つになり始めている朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)。物語はヒロイン・舞(福原遥)を中心として、あまり関係がないかに思えたもの同士さえもが互いに影響し合い、まさに感動的ともいえる展開を見せているところ。そこにあるのは、本作のテーマの一つである人と人とが夢を共有し支え合う姿だ。このことの大切さを、舞に、そして私たち視聴者に教えてくれたのは誰だろうか。そう、高橋克典が演じる岩倉浩太である。

 「岩倉螺子製作所」を父から継ぎ、のちに東大阪を代表する「株式会社IWAKURA」にまで会社を成長させた浩太は、元々は飛行機を製作するという大きな夢を追っていた人だった。かつてパイロットを目指していた舞の飛行機好きは、この父譲りのもの。いまでは会社経営者となった彼女のもっとも尊敬する人物の一人であり、舞にとっての最大の理解者であった。なぜいまこのタイミングで浩太について書くのか。それは『舞いあがれ!』が広く支持され続けた理由の一つが、彼の存在にあると考えているからである。

 「なにわバードマン編」や「航空学校編」など、本作はこれまでメインとなる舞台を変えつつ舞の成長物語を描いてきた。そのときどきでフォーカスされるキャラクターや人間関係は変わるわけだが、もちろんいつだって舞のバックグラウンドには岩倉家が、実家のネジ工場があった。彼女はどこへいっても周囲の人々を信じ、互いに手を取り合うことをあきらめない女性だが、この“支え合いの精神”を育んだのは間違いなく両親だ。特にチームのリーダーとして仲間を率いる才能は浩太譲りのものだろう。舞の笑顔を目にするたび、浩太の笑顔がよみがえってくる。舞の朗らかな声を耳にするたび、夢を情熱的に語る浩太の声が聞こえてくる。これは高橋の好演がそれだけ印象的だったことの証であり、作品を牽引する福原の力量に依るところも大きい。けれどもそれ以前に、この二人が作品のテーマを的確に汲み取り、共有できていなければならないだろう。高橋がその声色や一挙手一投足によって体現したテーマは、いまは福原が丁寧に引き継いでいる。高橋克典という俳優が担ったのは舞の父親役だけでなく、この『舞いあがれ!』全体の父親役でもあるのだ。

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 舞いあがれ! Part1』(NHK出版)にて高橋は、「朝ドラは、多くの方がご覧になるので、特別な気構えで臨んでいます。(中略)演じる浩太は飛行機を作る夢を持っていましたが、父親のねじ工場を継ぐことになります。福原遥さんが演じる舞とは、同じ飛行機好きで友達のよう。永作博美さんが演じる妻のめぐみは、飛行機に関わる仕事がしたいという浩太の夢を支えるため、親元を飛び出しましたからね。岩倉家の軸は飛行機への憧れにあるようです」と語っている。彼の発言内容は本作のベースとなる部分であり、ここまで物語を追ってきた方々には周知のものだろう。だがあえてこうして、高橋の言葉を引用するかたちで記してみた。みんなが共有する“夢のはじまり”には、浩太の存在があったからである。たとえその本人がいなくなっても、夢そのものはなくならない。

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