井之脇海×小野花梨だから成立した“粋な純愛” 『べらぼう』の“夢物語”に込められた思い

吉原の大門を通っていった2人の花魁がいた。一人は“伝説の花魁”として鳥山検校(市原隼人)に身請けされ、白無垢で堂々と去って行った瀬川(小芝風花)。もう一人は間夫・小田新之助(井之脇海)との大恋愛を遂げたうつせみ(小野花梨)だ。対象的な2人の花魁が手にした“幸せ”は、多くの女郎にとっての“夢話”であり、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が描き出す“希望”でもあった。
一度は足抜けに失敗し、恋の成就は絶望的とも思えたうつせみと新之助。第12回「俄なる『明月余情』」では、2年の歳月を経ても思い続けていた二人が再会し、祭に乗じて吉原を去っていく様子が描かれた。
賑わいの中で、ふと目があう2人。驚きの表情を浮かべる新之助に対し、うつせみは儚げな表情。再会できたことの喜び以上に、もう吉原を出ることはできないという諦めが滲んでいた。そんなうつせみの背中を押したのが、松葉屋のトップ花魁でもある松の井(久保田紗友)だった。「祭りに神隠しはつきものでござんす お幸せに」と言い花笠を受け取り、うつせみは新之助と2人で光の方へ歩き出していく。
闇の中にいたうつせみにとって、急に光が差し込んだ瞬間である。小野はこのシーンについて、第12回放送後に公開された井之脇と小野の公式インタビューにて「女郎は大門から先には出られない存在だったのに、そこを新之助さんと2人で出ていく。現実的に考えると、また見つかったらどうしようという恐怖、この先の生活への不安など、いろいろな感情があったと思います」とうつせみの感情について自身の考えを語る。
それをふまえた上で「でも、監督が『ネガティブな感情を出さなくて大丈夫』『幻想的であっていいし、豊かであっていい』『希望に満ちていていいんだ』とおっしゃってくださった」と明かし、「そういう演出も含めて、私はとてもうれしくて大好きなシーンになりました」と思いを語った。(※)
祭に喧嘩に芸能と、江戸の「粋」が詰まった第12回だったが、クライマックスを彩ったのは“普通の”女郎と浪人のまさしく夢物語。典型的な芝居の筋書きでもあるような“ハッピーエンド”となったのは、当時もあったであろう“希望”を描くという強い意思によるものなのだろう。