佐野勇斗は作品を“背負う”役者だ 『おむすび』翔也は“もうひとりの主人公”に

佐野勇斗は作品を“背負う”役者だ

 『おむすび』(NHK総合)も最終週に入り、結(橋本環奈)の物語も終わりに近づいている。米田家の面々はそれぞれが新しいライフステージへ進み、同時代に生きる私たちも励まされる。

 『おむすび』でMVPを挙げるとしたら誰になるだろうか? 自分は佐野勇斗を推したい。座長の橋本環奈を支え、今作を成り立たせる上で佐野の貢献は大きかった。佐野が演じたのは結の夫の翔也だ。何を隠そう翔也こそ今作の陰の主人公だった。最終週までの翔也の足跡をライフステージごとに振り返ると、“福西のヨン様”と呼ばれた糸島時代、社会人になり怪我で野球を断念するまで、結と結婚して新たな目標に取り組む日々に分かれる。

 翔也を主人公と考えるのは理由がある。夢を追い、栄光と挫折を味わっていること。ヒーローの顔とも言い換えられる。配偶者を支え、温かく励ます姿はいにしえの朝ドラヒロインの系譜に連なる。そして、親しまれる愛称と台詞を持っていること。

 翔也は初登場のインパクトがすごかった。海に落ちた帽子を取りに制服のまま飛び込んだ結をおぼれていると勘違いして、「大事か! いま助けっぞ」とダイブ。あらためて観直すと、この時点ですでに翔也らしさが全開だった。細かいことを言うと、翔也が飛び込む直前に結は「うちは朝ドラヒロインか」と自身の立ち位置にツッコミを入れており、メタレベルで自身を客観視する結は典型的なヒロインではない。代わりに全力でヒロインの役割を引き受けたのが翔也ととらえることが可能だ。

 翔也の人生は案外地味である。決め球ヨンシームを操る本格派右腕として鳴り物入りで登場した翔也は、結から見ると別世界の存在だったはず。大谷翔平のようにメジャーリーグを目指す翔也の夢ノートは、具体的な目標とそのための道程が書き込まれていた。それだけに、彼の夢が挫折するのを見るのは辛かった。いま思うと、翔也の夢の挫折は、甲子園出場をはたせなかった時点でほころびが兆していたと思う。星河電器で将来を嘱望された翔也は、右肩を負傷して野球選手の夢を断念する。人生を賭けた全てを一瞬のうちになくす喪失感は察するにあまりある。

 そこからどう立ち直るかが重要だった。歩(仲里依紗)の助けもあり、格好だけではないギャルマインドに目覚め、結との結婚に至る。波乱万丈の人生をストレートに体現していたのが翔也だ。その後の翔也は、よき夫また父として、ひたすら結と娘の花(りりや、宮崎莉里沙、新津ちせ)のために尽くした。聖人(北村有起哉)のようになりたいと理容師を目指して、店を継いだところまでが最終週だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる