『舞いあがれ!』成功体験のない主人公を描いた桑原脚本の凄さ 結果よりも“過程”が秀逸
これは結果でなく過程を描いた物語だ。
間もなく最終回を迎えるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』。視聴者の「こうなるよね?」との予想を良い意味で裏切り続けた朝ドラである。
東大阪でネジを作る町工場の長女として生まれた舞(浅田芭路/福原遥)は幼少期から体が弱く、母・めぐみ(永作博美)は空気の良いところで静養させるため、故郷・長崎の五島に暮らす自身の母・祥子(高畑淳子)のもとに娘を預ける。自然の中でたくましく育ち、東大阪に戻った舞は大学のサークル「なにわバードマン」に参加。人力飛行機を作りそれを飛ばす日々の中でパイロットになる夢を抱き、大学を中退した舞は航空学校へと進学する。航空学校卒業後、無事パイロットとして就職先が決まるものの、父・浩太(高橋克典)の急逝により、舞はIWAKURAで働くことを選択し、実家の事業が安定する中で町工場と企業をつなぐ新会社「こんねくと」を元新聞記者の御園(山口紗弥加)と設立。そんな中、「なにわバードマン」時代の先輩・刈谷(高杉真宙)から誰もが自由に空を行き来する“空飛ぶクルマ”を作りたいと聞いた舞は新たな夢を胸に抱く。
ここまで舞の足跡を超駆け足まとめてみたが、彼女の人生にはある共通項があることにお気づきだろうか。
それは朝ドラのヒロインには珍しく、華麗な成功体験がひとつもないことだ。大学のサークル「なにわバードマン」時代に人力飛行機・スワン号に乗って参加した記録飛行での結果は大成功といえるものではなかったし、航空学校での厳しい訓練を経てパイロットになる夢を掴んだと思いきや、父の事業を引き継いだ母をサポートするため実家に戻って恋人・柏木(目黒蓮)とも別離。工場の業績が安定する中で航空機部品を作るチャンスが巡ってくるが、さまざまな事情でそれも辞退。元新聞記者の御園と立ち上げた新会社では町工場の技術を結集させたランプを製作するも、販売権は大手インテリア会社に移譲。いつもあと一歩というところで華々しい成功は舞の手から離れていく。
タイトル『舞いあがれ!』をはじめ、幼い舞が飛行機に乗り感動する様子や五島でばらもん凧を上げる姿、「なにわバードマン」での経験、航空学校で彼女が奮闘する日々を見続けた視聴者の多くは確信していたはずだ。これは空に憧れた少女が女性パイロットとして成功し、下の世代に夢を届ける物語だと。