立花もも新刊レビュー 恩田陸、小川洋子、吉田恵里香 人気作家たちの注目作をピックアップ

立花もも おすすめ新刊小説

吉田恵里香『にじゅうよんのひとみ』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

吉田恵里香『にじゅうよんのひとみ』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

 朝ドラ『虎に翼』の脚本家が、はじめて書いたという小説が満を持しての復刊である。24歳の誕生日を迎えた主人公・ひとみの前に、突然見知らぬ赤ん坊が現れ、1時間に1歳ずつ成長していく。その姿に、赤ん坊はかつての自分だということに気づかされ、いやおうなしに過去と向き合わざるを得なくなっていくという、ファンタジックな物語である。

 ひとみは、学生時代に人気者だった丸山くんの恋人であるということ以外に、誇れるものがなにもない。そんな彼と同棲4年目、というのが唯一「成し得た」結果だけど、それもまた順調とは言い難い。このままじゃいけないとうすうすわかっていても、自分の力で現状を打破する根性もなく、うだうだしているひとみにとって、いちばん出会いたくないのは過去の自分。こと十代の、基本的に大人を見下している、全能感にあふれた思春期の自分である。

 読みながら、きっついなあと思った。私だって、14歳の自分になんて、会いたくない。今の自分はそれなりに悪くないと思っているけれど、あのころの自分からしてみたら、なりたい自分に慣れなかった現実にどうにか折り合いをつけつつも穏やかに暮らす自分は、絶対に「大事なものを失って日和った、情けない大人」でしかない。しかし、じゃあ十代の自分がすばらしかったかといえば、青臭くて痛くて、いたたまれないのもまた事実。その一歩一歩の積み重ねで「今」はあるのだ。

 主人公なのに、ひとみはとことん自分本位で、みっともなくて痛い部分をさらけだしてばかり。でも、その痛さごと自分を抱きしめるように、今を見つめ直していくひとみが、読んでいると愛おしくなってくる。やがて自分は自分でしかあれないという現実から、逃げない決意をかためるひとみの姿に励まされもする。傷だらけになって、もみくちゃになりながらも、力強く生きていこうと思える勇気を、もらえる小説である。

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