『こち亀』両さんの性格はなぜ丸くなった? 時代にあわせて変化した、少年たちの「リアルタイムの物語」

両津勘吉の「変化」が象徴するもの
さて、最後に、『こち亀』の長い連載の間に起きた「変化」について考えてみたいと思うのだが、その最大の変化はやはり、主人公・両津勘吉の内面の変化だろう。
具体的にいえば、初期の両津は、暴力性や狂気を秘めたどこか危ない警官だったのだが、徐々に丸い性格のキャラクターに変わっていった。これは、物語のうえでは、独身貴族だった彼が疑似家族(擬宝珠家)の一員になったことで起きた変化だといえるが、その根っこの部分にあるのは、作者の社会を見る目の変化でもあるだろう。
80 年代に流行った言葉でいえば、自由なスキゾ・キッズから、定住を好むパラノ・キッズへ。果たしてその変化は「退化」なのだろうか。あるいは、システムに抗っていた者が、結局はシステムに取り込まれてしまったということなのだろうか。たぶんそうではないだろう。
失われつつある下町の人情、家族や友人たちとの絆、住み慣れた土地が与えてくれる安らぎ。90年代以降の秋本治が、両津勘吉というキャラクターの目を通して幻視していたのは、おそらくはそういう、なくしてはならない、人間にとって“大切なもの”の数々だったはずだ。そしてそれは、バブル崩壊後、多くの人々が無意識のうちに求めていた普遍的な“優しさ”や“懐かしさ”のイメージとも重なり、超人たちによる血なまぐさいバトル漫画が主流の「少年ジャンプ」の中にあって、「こち亀」は常に温かい光のような存在であり続けられたのではあるまいか。
いずれにしても、3月22日の開館後には、一度、「こち亀記念館」に足を運んでみたいと思っている。そこにはきっと、「両さん」というキャラクターが象徴する、“大切な何か”が溢れていることだろうから。
▪️「こち亀記念館」公式HP:https://kochikame-kinenkan-official.jp/























