ミッシェル・アベフトシ「伝説のギタリスト」と語り継がれる理由 盟友チバユウスケが寄せた言葉とは?

1991年に結成され、1996年にメジャーデビュー、2003年に解散。わずか10数年の活動のなかで、日本のロックシーンにすさまじい衝撃を与えたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT。今なお多くの音楽ファン、ミュージシャンを魅了し続けるこのバンドのギタリスト、アベフトシ(2009年没)の軌跡を辿るアーティストブック『アベフトシ/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(復刻版)』が重版され、再び注目を集めている。
「ギター・マガジン」での貴重なインタビューが掲載

2010年12月にリットーミュージックから発売された同書は、「ギター・マガジン」誌における数々のインタビュー(96年のメジャーアルバム「cult glass stars」から01年のアルバム「ロデオ・タンデム・ビート・スペクター」まで)を収録。さらにアベが敬愛していた鮎川誠(’23年没)との対談記事、アベが使用していたギターやアンプなどの機材紹介、そして、盟友・チバユウスケ('23年没)をはじめ、ウィルコ・ジョンソン(‘22年没)、ミック・グリーン(’10年没)、浅井健一といったミュージシャンからの追悼メッセージも収められている。また、アベの代名詞である高速カッティングを中心にした奏法紹介、「ゲット・アップ・ルーシー」「スモーキン・ビリー」「世界の終わり」といった代表曲のギター・スコアも掲載されているので、ギターに興味がある読者にとっては、彼のプレイの片鱗を体感できるかもしれない。
影響を受けたミュージシャンやルーツミュージック、楽曲に対するアプローチやフレージングなど、ギタリストとしてのアベフトシを網羅している本書。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTをリアルタイムで体験した私(50代の音楽ライター)も興味深く没頭してしまったが、もっとも心に残ったのは、アベが抱えていたバンドに対する想い、そして、メンバーに対する愛着の強さだ。
それがもっとも感じられるのは、アルバム「ギヤ・ブルーズ」リリース時のインタビュー記事。初めて「ギター・マガジン」のカバーを飾った号での取材でアベは、「ミッシェル以外でのセッションなどに興味がありますか?」という質問に対して、こう答えている。
「全然思わないんですよね、俺。やってみたいと思わない。それに俺のギターはほかのバンドではダメでしょう。このバンドで弾いてるからこそ俺のギターはいいんであって、ほかではダメだと思うよ」
さらに、
「俺はギタリストというより、ただのバンドマンだと思ってるから。毎回、自分らで納得できるカッコいいものを作っていければいい。ハッキリ言っちゃえば、ほかのことはどうでもいいんですよ」
とも。
ギタリストである前に、バンドマンとして生きていきたい。おそらくアベは、音楽人生を通し、その思いを強く持っていた。そのことが明確に表れた言葉だと思う。
アベが逝去した後に行われたチバのインタビューも、本書の大きな読みどころだ。出会いの衝撃(「もう音出してツマミ調節してる時点で“あぁ、もうコイツだな”って思ったね。……うれしかったよ。」)、ギタリストとしての魅力(「いまだにあのカッティングおかしいだろって思うし。弾けないからね(笑)。“どんだけ速いんだよ!”って。」)、プライベートでの人柄(「酒癖の悪さは、アベが1位で、俺が2位(笑)。」)など 貴重な証言で埋め尽くされている。
特に最後の「……でも俺が知ってる限りでは、世界でーーというか今までの地球上で、3本の指に入るギタリストだと思うよ。……それぐらい俺もアベ君に影響受けたから。」という言葉にはどうしても心を揺さぶられてしまう。こんなにも信頼し合い、尊敬し合っていた2人はもうこの世にいないんだな……という寂しさがじんわりと押し寄せてくるのだ。