「ずっと音楽が鳴り続けている人でした」チバユウスケ『EVE OF DESTRUCTION』担当編集・尾藤雅哉が語る秘話
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)やThe Birthdayとして活躍し、昨年他界した日本屈指のロック・ボーカリストであるチバユウスケさんの書籍『EVE OF DESTRUCTION』(ソウ・スウィート・パブリッシング)は彼の遺作となった作品だ。
書籍には、チバユウスケさんの音楽人生において欠くことのできなかった重要なレコードの数々が紹介されている。掲載されるレコードは12ジャンルで250枚以上が掲載。ジャケットをみているだけでも楽しめる内容で、チバさんが愛したレコードを彼の言葉と共に追体験できる。さらに巻末には、レコード同様にチバさんが集めてきたバンドTシャツのコレクションの一部も特別に掲載。レコードからTシャツまで、チバさんの一貫した音楽愛を感じ取ることができるだろう。
この『EVE OF DESTRUCTION』を企画した担当編集者である尾藤雅哉氏は、制作中にはチバさんとさまざまなエピソードがあったという。本作の制作経緯や思い出について語っていただいた。
『EVE OF DESTRUCTION』は、かっこいい先輩から自分の知らないかっこいい音楽を教えてもらえるような1冊にしたいと考えていました。最近は、サブスクのプレイリストをきっかけに新しい音楽をチェックする人も多いと思うんですが、ひと昔前みたいに、ちょっと怖いんだけどものすごくかっこいい先輩から「お前、これ聴いとけよ」みたいに音楽を教えてもらえる機会って、めっきり減ったように感じていて。なので、チバさんが大好きな音楽との出会った時のエピソードや、その音楽を聴いたことによる心の動きなどを、大切なレコード・コレクションと一緒に紹介してもらうことで、本を読んだ人が新しい音楽と出会うきっかけを作れたらうれしいと思っていました。
事務所に行って書籍の表紙や私物レコードの撮影をした時、僕が持ち込んだ簡易レコード・プレイヤーでいろんなレコードを聴かせていただいたんですけど、、チバさんはすぐ歌い出しちゃうんですよね。例えばモッズ(THE MODS)の『NEWS BEAT』を一緒に聴いた時は、「この1曲目と2曲目の切り替わり聴いてみてよ、すげえかっこいいから」と言ったかと思えば、曲が切り替わった瞬間に一緒に歌い出したり。「これを10代の頃に聴いたらブッ飛ぶよ!」ってことを、すごく嬉しそうに話している姿を今でも鮮明に思い出します。その瞬間、僕は「チバさんの中ではずっと音楽が鳴り続けてるんだな」ということを強く感じました。
僕自身、これまで10年以上にわたり、いろんな場面でチバさんを取材しましたが、いつ会ってもすごくカッコよくて、とてもチャーミングな人でした。忘れられない思い出もたくさんあり、いまだに亡くなったという事実を受け止められないでいたりします。
あと個人的な話になってしまいますが、昔、スペースシャワーTVでチバさんが好きなレコードを紹介する「塩化ビニール地獄」という番組をやっていて。当時の僕は高校生だったんですが、この番組を通して自分の知らないかっこいい音楽をたくさん教えてもらいました。そういう意味でチバさんは僕にとって「先生」でもあったんです。僕自身、『EVE OF DESTRUCTION』で紹介されているレコードはすべて聴きました。その中には、初めて出会うアーティストもいましたし、書籍に綴られたチバさんの言葉がきっかけで楽曲の印象がガラリと変わった作品もありました。改めて、チバさんのおかげでいろんな音楽の新しい魅力を発見することができたように感じています。
書籍の制作時には、マニアックなものから王道まで、チバさんの中で「これは外せない」というレコードをたくさん選んで持ってきてくださって。あれも紹介したい、これも紹介したいと話をしながら制作を進めていたら、結果的にチバさんが持ってきて下さったほぼすべての作品を掲載することになりました。本が出来上がったあとにチバさんにお会いする機会があったんですけど、その時に僕が大量のバドワイザーのビールをお土産として持っていったら、「いいねえ(笑)」と嬉しそうに喜んでくれました。そこで本の仕上がりについて聞くと、「自分が好きなレコードのジャケットがバーっとたくさん並んでいるのは圧巻だよ。いい本になったよね」と話してくれたのを覚えています。この時が、僕がチバさんと言葉を交わした最後の日となってしまいました。
書籍の前書きには「この本を君が手に取って、なんかしら素晴らしい音楽に出会えたら幸いです。(中略)音楽は、音は、ずっと君に残るよ。」と記されていますが、書籍の中はまだ出会ったことのない音楽作品がきっとあるはずです。ぜひ、チバさんが本の中に残した言葉とともに、チバさんが愛した音楽作品をたくさん聴いてもらえたら嬉しいです。