花咲くいろは、SHIROBAKO……富山のアニメ制作会社・P.A.WORKSが傑作オリジナルアニメを作り続けられるワケ


日本のアニメの人気が世界的に高まっている。関連市場は世界で3兆円を超えると言われ、アニメ制作会社の中にも最高収益をあげるところが出ている。一方でアニメ制作会社や現場で働く人たちの苦境も話題に上る。どうすればアニメ業界で生き残っていけるのか? 『未来を照らす、灯りをつくる。 アニメの制作会社が自立するために~アニメーション制作会社・P.A.WORKS25年物語』(parubooks)という本を読むと、『花咲くいろは』や『SHIROBAKO』で知られるアニメ制作会社のピーエーワークスが、どのようにして創業から25年という年月を乗り切って来たかが分かる。
2人の創業者による対談のテーマは6つ
「近年アニメーション業界は勢いがあって、多くの制作会社が毎年誕生しています。この本が新たな経営者の参考になればいいな、と考えています」。ピーエーワークスの創業者で代表取締役の堀川憲司が「はじめに」で書いているとおり、『未来を照らす、灯りをつくる。』は外からでは見えづらいアニメ制作会社の経営の実態が、自分たちの経験も含めて語られている一種のビジネス書だ。
構成の中心になっているのは、堀川と映画『駒田蒸留所へようこそ』(2023年)などで監督を務めた吉原正行という、“2人の創業者”による対談だ。「①育成」「②制作現場」「③三年物語」「④新三ヶ年ビジョン」「⑤オリジナル作品」「⑥ブランディング」といった項目で繰り広げられた対談はどれも読み応えたっぷり。アニメファンにはあの作品はこうして生まれたのかといった驚きがあり、アニメ関係者はそうやって会社を舵取りしてきたのかといった学びを得られる。
たとえば「①育成」に関する対談からは、富山で2000年に「越中動画本舗」として立ち上がったピーエーワークスが、高いクオリティの作品を安定して送り出し続けるために必要な人材を、どのように獲得して育成してきたのかが分かる。寮を作って、富山のそれも奥まった場所にある南砺市まで来てもらえる人を集めた。最近は多くのアニメ制作会社で始まっているアニメーターの社員化をいち早く進めた。原画マン志望者のための「P.A.養成所」も設立し、原画を描くための基礎知識を教えた。結果、「頑張って作画監督になって自由に絵が描けるようになった、という人が出て来た」(吉原正行)そうだ。
必要な人材の確保のためにしっかりと仕組みを作って取り組む。加えて、若い人たちの働くことへの意識が変わって、「『会社が必要として入ってきてあげたんだから教えることも当然だ』という意識の社員も出るようになった」(吉原)ことに対応し、「育成会社として生徒や新人に対しての言葉の使い方や伸ばし方に、相当気をつかうように」(吉原)して定着を図り、才能を伸ばす。こうした柔軟性は、アニメ業界に限らず古いやり方に縛られがちな日本の会社に必要なものだろう。
クリエイティブな仕事に必要なものは「熱量」
作画スタッフだけでなく、制作進行と呼ばれるポジションの人も育成しなければアニメ制作会社として仕事が回らない。そこで、「②制作現場」で話されているように、制作一人ひとりの負担を軽減したり、クリエイティブな仕事に関わっているという意識を持てるようにしたりして、ピーエーワークスという会社に長くいたいと思ってもらえるようにしている。
そこで重要なのが「熱量」だ。「『SHIROBAKO』の佐藤さんのように、最初は熱量が低かった人でも周りの熱に当てられて変わっていく人もいる。僕が今一番考えている課題は、ものづくりの核となる熱量を生み出す環境ってなんだろう? ということ」(堀川)。熱量のカタマリのようなオリジナル作品を絶えず送り出し、ここなら自分が作りたいものを作れるという思いを持った人に来てもらい、共に新しいことに挑戦していくマインドを持ち続けられるようにする。そんな環境を頑張って作ろうとしていることが対談から伺える。
「③三年物語」という対談では、会社の中で向こう3年のうちに果たしたい目標を話し合う「三年物語」という取り組みを通して、働く人たちの意識を高めていこうとしていることを理解できる。「④新三ヶ年ビジョン」では、オリジナル作品を作り続けるために必要なことを考えたり、3DCGなどの新しい技術に対応した制作フローを作ったりといった、アニメ制作会社に共通している課題への対応策を知ることができる。
テクニカルな部分では、本島一也プロデューサーによる「コラム②ピーエーワークスの新しい制作フローについて」が役に立つ。ラフ原画と第二原画が分かれ、若手が技能を習得する機会を奪われている問題に対して、ピーエーワークスがどう対策しているかが紹介されている。内部で若手を育てている会社だからこそ可能なフローとも言えるが、業界全体で課題とされていることでもあり、参考にするところも出てきそうだ。
オリジナルアニメーションを作る想像力と創造力
ピーエーワークスのファンとして気になるのは、対談「⑤オリジナル作品」で語られているオリジナル作品への今後のスタンスだろう。ここが細ってしまっては、『true tears』に始まり『花咲くいろは』『TARI TARI』『SHIROBAKO』『さよならの朝に約束の花をかざろう』『アキバ冥途戦争』といった、時々の話題となるオリジナル作品を見られなくなってしまうからだ。
これほどまでに優れたオリジナル作品を作り続けてきたアニメ制作会社はほかにあまりない。制作資金を出す側がヒットが見込める原作ものを優先する動きが強まっている中で、数字が読めないオリジナル企画に賛同してもらうにはよほどの説得力が必要だ。ピーエーワークスの場合は、「僕らには『作りたいものを作りたいんだ』という熱量があったから、オリジナル作品を作るチャンスをもらった時、『ぜひ作らせてください!』と受けてきた」(堀川)。その成果として『花咲くいろは』を生み出した実績があったことが、その後オリジナルの依頼へと繋がり、オリジナルに強いアニメ制作会社というブランドの確立にも繋がった。
原作ものを否定している訳ではなく、『スキップとローファー』のように漫画を原作とする作品もしっかりと面白いアニメに仕上げてくれて、ファンから熱い支持を得ている。ただ、「オリジナルを生み出す苦労を回避して、全部原作ものに依存してしまったらアニメ業界はオリジナルアニメーションを作る想像力と創造力を失って、将来取り返しのつかないことになるんじゃないの、と思う」(堀川)という危機意識は常に持っている。
そうならないために今後もオリジナルは作り続けるそうで、メーカーなどからもらえる機会を活かすだけでなく、自前でも「独自の収益モデルを作って、40~60分くらいのオリジナル作品を安定して作れるような仕組みができないかなと思っている」(堀川)とのこと。2025年に「文芸部」を立ち上げたのも、オリジナルに強いスタジオというブランドをより強く打ち出していけるような体制を作るためだ。
こうした「未来を照らす、灯りをつくる。」施策の積み重ねがピーエーワークスを強い存在感を持つアニメ制作会社にして、日本のアニメが世界で評判になる一助となっているなら、アニメ業界として学ぶところは多く、アニメファンとしても支えていく必要がありそうだ。
























