【追悼】チバユウスケ、著書『EVE OF DESTRUCTION』に遺した言葉「音楽は、音は、ずっと君に残るよ」

 この世界には、ロックを歌うためだけに生まれてきたような声の持ち主がいる。2023年11月26日に亡くなったチバユウスケも、そんな声の持ち主のひとりだった。

  チバユウスケは1968年生まれ。90年代以降の日本のロックシーンを牽引してきたTHEE MICHELEE GUN ELEPHANT、ROSSO、The Birthdayなどのフロントマンとして知られるヴォーカリストだ。

  誤解を恐れずにいわせていただければ、彼のあの独特なしゃがれ声には、攻撃性や暴力性だけでなく、“優しさ”のようなものも含まれていたように思う。だからこそ私は、そこに本物の「ロック」を感じるのだ。そう、ロックのアティチュードには、すべてを破壊して新しい世界を作り出そうという初期衝動だけでなく、“ラブ&ピース”の精神も含まれていなければならない。チバの声には間違いなくそれがあったのだと私は思う。

聴こえてくる“音”がすべて

  さて、本稿では、そんなチバユウスケの著書『EVE OF DESTRUCTION』(SOW SWEET PUBLISHING)を紹介したい。

  同書は、名うてのレコードコレクターでもあったチバが、自らのルーツともいうべきロックの名盤の数々を、色鮮やかなジャケットの写真とともに解説した1冊である。

  厳選されたレコードの中には、パンク、ロックンロール、ガレージロック、スカ、ロカビリーといった“いかにも”なジャンルだけでなく、映画音楽(サウンドトラック)やジャズなども少なからず含まれており、彼の幅広い音楽性が垣間見えて興味深い(もっとも、チバ曰く、「マイルス・デイヴィスだって、俺にとってはロックなんだよ」ということらしいが)。

  また、個人的には、「俺が好きになる音楽の基準は“音がカッコいいかどうか”。今とは違ってバンドが演奏している映像なんて簡単には観られない時代だったしね。聴こえてくる“音”がすべてなんだよ」という言葉が印象に残った。そういう意味でも、やはりレコードは、彼にとって最も重要なメディアの1つだったのだろう。

音楽はずっと残る

  レコードといえば、かつて作家の片岡義男がこんなことを書いていた。

  LPは魔法だ。過去のある時あるところで流れた時間が、音楽にかたちを変えて、LPの盤面の音溝に刻み込んである。その音溝から音楽を電気的に再生させると、過去の時間が現在の時間とひとつになって、現在のなかを経過していく。何度繰り返しても、おなじことが起きる。これを魔法と呼ばないなら、他のいったいなにが魔法なのか。

〜『僕らのヒットパレード』片岡義男・小西康陽(国書刊行会)より〜

  同感だ。そして、このことは、チバユウスケが遺してくれた音源の数々についてもいえることだろう。悲しいことに彼はもうこの世にはいないわけだが、彼の歌声はさまざまなレコードやCDに刻み込まれており、それは、こうしている今もきっとどこかで「再生」されている。

  『EVE OF DESTRUCTION』のイントロダクションで、チバ自身こんなことを書いている。

  この本を君が手に取って、なんかしら素晴らしい音楽に出会えたら幸いです。ジャケットを見るだけでも楽しいと思うよ。ジャケットから音を想像していいかもなと思ったら、ぜひ聴いてみてください。きっと何かが広がるはずさ。音楽は、音は、ずっと君に残るよ。
〜『EVE OF DESTRUCTION』チバユウスケ(SOW SWEET PUBLISHING)より〜

  音楽は、音は、ずっと君に残るよ――なんて力強い言葉なのだろう。稀代のロッカー、チバユウスケさんのご冥福を心からお祈りいたします。

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