「ガンダムホラー」という新機軸ーーネトフリ『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』怖さの理由は?

■なぜ、本作のガンダムは怖いのか?

  正直に書けば、冒頭のクルジュ=ナポカ基地を奪還すべくジオン兵が前進するシーンから、「そんなことある!?」となってしまった。位置関係的に攻撃する予定の基地はすぐ目の前なのに、道幅の広い道路のど真ん中をマゼラアタックと歩兵がゾロゾロと隊列を組んで行進し、中にはジオンの旗を持った旗手までいる。

  いや〜「これから敵陣を奪還するぞ〜」「しかも基地は市街地の近郊だから、反撃されたら市街戦になるかもだぞ〜」という状況で、そんな前進の仕方あります? なんかこう……部隊ごとにもっと散らばってさあ……敵の反撃をいなしつつ……こう……基地をうまく包囲したりとか……。その後、ド正面から進軍していたジオン軍はやっぱり反撃にあって大ピンチになり、空挺降下してきたザクに助けられてようやく基地を奪い返していた。そりゃそうなるわな。

  それ以外にも、「11月のルーマニアで、袖着いてない格好でウロウロしてたらさすがに寒いんじゃない?」「モビルスーツに戦車の主砲が効かないにしても、なんらかの跡くらいは残らない?」「モビルスーツ用のパラシュート、ちっちゃくない?」「画面に敵味方を収めなくちゃいけない事情はわかるけど、さすがに交戦距離が近すぎない?」などなど、重箱の隅が気になって仕方がなかった。これは多分、二次元の絵が動いてるアニメだったらたいして気にならなかったはずである。しかしUnreal Engine 5による生々しいキャラクターやメカの描写と、画面から漂う「ミリタリーをやってます!」という雰囲気のせいで、「それにしては変じゃない?」という気持ちが強くなってしまったのだと思う。

 「う〜ん、これはどうやって見たらいいんだ……」と思っていたのだが、2話3話と見ていくうちに、だんだん『復讐のレクイエム』との付き合い方がわかってきた。この作品を「ハードなミリタリーSF」だと思っていた自分の方が間違っていたのである。『復讐のレクイエム』はミリタリーSFではなくホラー、それもスプラッタ寄りのホラーとして見ればよかったのだ。

  すでにネットでも散々言及されているが、本作のガンダムは怖い。元々「ガンダムは最新型なので、ザクなどのジオン軍モビルスーツより圧倒的に高性能」という設定はあるのだが、その性能差を「恐怖」という形で表現したのが『復讐のレクイエム』である。ホラーだから、ミリタリー関係の描写がユルくても仕方がない。ジャンルが違ったのだ。

  そう思って見ると、第1話の時点で、ガンダムの怖さはガンガン描写されていた。ビームライフルはザクを貫通してその後方の建物を破壊するほど威力が高く、重力下でも凄まじい機動力でぴょんぴょん飛び回り、ザクの武器は全然効かない。なんせパンチ一発でザクのコクピットの装甲を叩き割って、中のパイロットを圧死させちゃうのである。強い弱い以前に、殺り方がエグい。

  あ、スプラッタホラーなんだこれ……とわかったのは、ビームライフルが直撃した後の描写である。ビームライフルがあたると、高熱で溶けて液状になった装甲が被弾したザクから血しぶきのように飛び散り、胴体に大穴が空いたのちに爆発する。ほとんどモータルコンバット、なるほど人体損壊というか、モビルスーツ損壊芸が『復讐のレクイエム』の持ち味だったのか。

  本作のガンダムは、怖いだけではなくやたらしつこい点も特徴である。ソラリ大尉らが逃げるところに常に出没し続け、必死の抵抗を全く受け付けずひたすらジオン軍を粉砕しまくる。逃げてもダメ、抵抗してもダメ、どうやっても勝てない……という絶望感は、ホラー映画に登場するシリアルキラーが発するものと同じである。片目と片アンテナが損壊しても追いかけてくるガンダムの様子は明確にホラーとして演出されており、実際怖い。内容に全然共通点はないけれど、コミックボンボンガンダム増刊号に載ってた馬場康誌の『DEAD ZONE』を思い出してしまった。

■「ガンダムらしさ」と「ガンダムらしくなさ」

  もちろん本作の見どころはそれだけではない。特に「超能力によって敵味方が感応し、頭の中を覗きあってしまう」というガンダムではよくある展開を、「兵士として従軍した母親と、敵として現れる子供と同年代のパイロット」というあまりガンダムでは描かれていない関係性に落とし込んで表現した終盤の展開は、新しさとシリーズの伝統を踏まえた見事な着地点だったと思う。「ものすごくガンダムっぽい展開を、あんまりガンダムっぽくないキャラクター配置でやる」という作劇の方法は、今後の宇宙世紀ものガンダムにとって、かなり重要なものとなるのではないだろうか。

  というわけで最後まで見た結果、なんだかんだでけっこうエンジョイしてしまった『復讐のレクイエム』。「これはホラーだ」という見方に気が付かなければ最後まで完走できなかったかと思うと、なかなか危ないところだった。結論としては、「ガンダムらしさ」と「ガンダムらしくなさ」とは何かに真摯に向き合った作品であり、2024年にネット配信で公開されるガンダムシリーズ最新作としては、必要なポイントを全て押さえていたのではないだろうか。「ガンダムホラー」という新ジャンルの誕生を目撃できて、まずはよかったなと思う次第である。

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