杉江松恋の新鋭作家ハンティング 『銀河風帆走』のジャンルを超越したおもしろさ

『銀河風帆走』ジャンルを超越したおもしろさ

 次の「されど星は流れる」「冬にあらがう」も等身大の主人公が描かれる物語で惹きつけられるのだが、四話目が前述の「星界に没す」でいきなりスケールの大きな話になる。おお、なんという未来なのだろうか。そして最後が表題作である。題名が示すようにこれも宇宙SFで、地球を出発し別の銀河を目指す者たちが主人公となる。どんな主人公かというと「体重は十三万二千トン、体系は赤道半径よりも極半径が長い偏重楕円体に近く、赤道半径は三十メートル、極半径は八十五メートル」、つまり航行する宇宙船そのものなのである。人類は、自分たちの可能性を残すため、新世界へ到達するために存在のありようそのものを変えたのだ。

 このように今いるところからははるかに離れた世界の物語なのだが、不思議と近く感じられる。「もしもぼくらが生まれていたら」の青春小説的な構造が本作にも活かされているからである。等身大の青春小説から始めて遥かな未来の物語で終わるという本の構成も効果を上げていて、少しも読みにくく感じるところがない。最後まで読んで、あ、そういえばSFだったっけ、と思い出す人もいるのではないだろうか。

 これぞSFという感性を、ここまで親しみやすく書いてくれた点が本当に素晴らしい。本書を読んでSFというジャンルに目覚める人もたくさんいるはずだ。特に中高生の世代には、ぜひ読んでもらいたいと思う。SFの楽しさを改めて再認識させてくれた一冊だった。宮西建礼、本当に素晴らしい小説家である。

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