『プリパラ』10周年、普遍のキャラはどうつくられた? アートデザイナー・金谷有希子に聞く、創作の裏話
■真中らぁらはこうして生まれた
――『プリパラ』のキャラは大人にも人気があり、ファンアートなども盛んですし、コスプレをされる方もいます。とはいえ、ターゲットは子どもですよね。子ども向けを意識してデザインした点を挙げるとすれば、どんなところなのでしょうか。
金谷:一言で言えば、子どもが“友達になりたい”と思うキャラを目指しました。社内でキャラのイメージについて相談していた時に、「友達になりたいキャラがいいんじゃない」という話が出て。「これだ!」と思い、デザインしたのがらぁらです。(南)みれぃや(北条)そふぃも、アートデザイナーの櫻井明香と「どんな子と友達になりたいかな」と話しながら考えました。
――『プリパラ』といえば、「み~んなトモダチ !! み~んなアイドル!!」というコンセプトがあります。コンセプトが決まる前から“友達”を重視していたのですね。
金谷:はい。友達になりたいキャラをデザインする姿勢は、『プリパラ』の4年間、一貫して守り、大切にしました。
――真中らぁらを例に、デザインがどのように決まっていったのか、具体的に解説していただけますか。
金谷:まず顔は、眉毛を離してちょっととぼけた感じを出し、目の色は海を思わせる吸い込まれそうなきれいな色にしました。目を見ただけで、きれいだなと思ってもらえるよう意識しています。顔周りの毛は、当時ショートカットが流行っていたので、顔周りにふわっとした髪を加えて、幼さや親しみやすさを表現しています。特にアホ毛は、親しみやすさが増します。前髪を斜めに流すことで子どもが憧れる大人っぽさを表現していますが、すべて流すと大人っぽくなりすぎてしまうと思い、端を少し戻しています。
■ツインテールとコーデのこだわり
――らぁらを印象付けるのは、ボリューム満点のツインテールですよね。
金谷:ツインテールは、単に横から結んだだけでは印象が弱く、主人公っぽくないと思いました。そこで、ポニーテールくらいの高さからツインテールが生えているデザインにしました。ポニーテールの溌剌さとツインテールのかわいらしさを融合させて、元気で明るい子、話しかけやすい子を表現しています。
――らぁらが着ている衣装(コーデ)もかわいらしいです。
金谷:肩ひものデザインは映画館で『タイピスト!』を見て、主人公の女の子が着ている服のデザインがかわいいと思って入れたんです。私は映画からヒントを得ることが多いんですよ。そして、腰の黄色の部分は当時ぺプラムスカートが流行っていたので、フリルを入れています。
――スカートにはストライプもありますね。色も三色あって美しいと感じます。
金谷:らぁらのストライプは櫻井と話しながら考えました。これも当時の流行ですね。色が交互に違うのは、ピアノの鍵盤をイメージしたんです。ちなみに、最初は太い一本線ではなく、二本と三本だったんですよね。ゲームの3Dモデルを起こすときには、忘れられてしまいましたが(笑)。
――お話を聞いていると、金谷さんのキャラデザの手法は様々な要素を足し算していく感じなのかな、と思うのですが。
金谷:いえ、私は足し算のデザインが得意ではなく、どちらかといえば引いていく感じだと思います。とはいえ、要素はたくさん入れましたね(笑)。理詰めでつくっている部分はありますし、こういう風に書いたらこう見えるよねと、狙ってデザインしています。
■会心の出来は、らぁらとファルル
――金谷さんはゲームやアニメよりも、映画や流行のファッションなどから着想することが多いのでしょうか。
金谷:そうですね。私はアニメやゲームも好きなのですが、ファッション誌のモデルや映画の女性など、現実の人を参考にします。だから、デザインした絵を振り返るとトレンドが反映されているのが特徴で、あの時はこんな服が流行っていたな……と感じることがあります。
――金谷さんが、ご自身で会心の出来と満足しているキャラは誰ですか。
金谷:らぁらとファルルですかね。ファルルは森脇監督にもデザインを褒めていただきました。らぁらとファルルの2人が関わったことでいろいろな話が動いた、物語上重要なキャラでもあります。ファルルのデザインは、はじめは難航した記憶がありますね。一度ボツになっているんですよ。ラブリーでお姫様系のキャラなのですが、もっとロボットっぽいデザインを入れてみようと提案がありました。
――かなり難しいオーダーですね。
金谷:ロボットとお姫様は両立が難しいと思ったのですが、ロボットのイメージをスチームパンク的な要素として落とし込めればいけるのでは、と考えました。ファルルの球体関節などにその面影がありますね。あと、デジタルっぽい要素を入れたいと思って、家電量販店のオーディオ売り場で様々な機器を見て、再生ボタンなどのイメージをドレスや胸のところに入れました。あと、らぁらもラブリーなキャラですが、ファルルは対になるラブリーを意識しました。らぁらは従来の音楽の要素、ファルルはデジタル音楽的な要素を盛り込んでいます。
――ファルルのデザインを見ると、金谷さんの苦労が垣間見えますね。もっともキャラデザで難しかった、デザインが決まらなかったキャラは誰でしょうか。
金谷:やはりファルルは大変でしたが、特別に時間がかかったキャラは、実はいないんですよね。タカラトミーアーツさんとやりとりを重ねながらデザインしていったのですが、みんな同じくらい、いくつもの工程を考えてできあがったと思います。