『100日後に死ぬワニ』待望の続編 著者・きくちゆうきに聞く『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』誕生の背景
2019年12月12日から2020年3月20日にかけてTwitter(現X)にて公開され、連載終了日にはTwitterのトレンドで世界1位となるなど、大反響を読んだきくちゆうき氏による四コマ漫画『100日後に死ぬワニ』の待望の続編となる『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』(双葉社)の書籍版が、12月18日に発売された。
2024年8月20日、『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』がX(旧Twitter)で連載開始されることが発表されると約2000万インプレッション、3万7000の「いいね」が寄せられ、多くのファンたちから歓迎の声が上がるなど、大きな話題となった。同作では、ワニが亡くなった原因となった事故の真相が判明。ワニの死からなかなか立ち直れないネズミがどのように前に進むのかが描かれている。書籍版ではさらに描き下ろしの新ストーリーを掲載。「センパイとワニ『17日間の恋人』」というタイトルで、ふたりの恋愛と最期の別れをテーマにしたマル秘エピソードが公開されている。
『100日後に死ぬワニ』から約4年、改めて続編となる『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』を発表した理由について、著者のきくちゆうき氏に話を聞いた。
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中途半端になってしまうのだけは避けたいと思っていた
ーー『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』は大ヒット作『100日後に死ぬワニ』の単純な続編というより、「残された側」の姿が描かれることで、併せて読んで得られるものが大きい作品だと感じました。あらためて、4年越しに新作が生まれた経緯を教えてください。
きくちゆうき:4年前も描きたい気持ちはあり、出版社から「続編を描きませんか?」というお話もいただいていました。けれど、『100日後に死ぬワニ』の最終話を投稿した後、事実に反するフェイクニュースで批判を受けてしまい、「描いてもまた何か言われるよな……」という気持ちになってしまって。SNSで反論する気もなく、そこから作品を発表することもないまま日々を淡々と過ごしていたのですが、「そろそろ自分もちゃんと動き出さなければ」と考えていたなかで、今年の初めに双葉社さんから声をかけていただいたんです。いいきっかけだなと思って、検討し始めました。
ーーそこからはトントン拍子で進んだんですか?
きくちゆうき:いえ、1回目の打ち合わせでは決めなくて、自分自身の納得がいくネームが作れたら出したいです、というところで、実際に80本くらい描いてみて、「これならいける」と判断できたのが6月くらいのことでした。物語として面白いことはもちろん、各キャラクターについて描かなければいけないことをしっかり描いた上で、読者の気持ちをリンクさせることができるか、ということが重要で。
ーーなるほど。読者は1日1日、リアルタイムで物語を追うわけですから、その感情の動きまで考えなければいけない。
きくちゆうき:そうなんです。基本的に4コマ内で動きをつけて1日を表現していく形になるので、それが少し難しいところでした。
ーー『100ワニ』ファンが気になっていた、センパイのその後も描かれた「センパイとワニ『17日間の恋人』」が描き下ろしで本の方に収録されていますが、本編では描ききれないことや、あえて描かないほうがいいと判断されたエピソードもありますよね。
きくちゆうき:『100ワニ』では、二人は1日で付き合うことになっているので、その経緯をちゃんと伝えたいと考えていたのですが、全体の構成を考えると本編で扱うのは難しく、描き下ろしを入れられるなら読者の期待にも応えられるなと。
ーー今作から読み始める読者もいることを考えると、あまり前作が前提になり過ぎているエピソードは入れづらい、という判断もあったのかと。
きくちゆうき:そうですね。最初に最低限の説明をして、その後の話をじっくり描いていきたいと考えました。実際に描いてみて、もし批判があったとしても自分は満足できるものができそうだったので、実際に連載をスタートしました。中途半端になってしまうのだけは避けたいと思っていたんです。
ーーそうして生まれた本作ですが、『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』というタイトルについても聞かせてください。SNSで公開されているとはいえ、本を手に取って初めて読む人にもある種の緊張感を持ってほしくネタバレは避けたいところですが、結末を完全には示さない、良いタイトルだと思いました。
きくちゆうき:ありがとうございます。前作にも増して「生きる」ことがテーマになっているので、別のタイトルも検討したのですが、やはりインパクトをしっかり残したものにしようと。どう読むのか分かりづらいのが難点ですが(笑)、前作とリンクしつつ、良いタイトルにできたと思っています。
ーー『100ワニ』をリアルタイムで読んで、何気ない1日を噛み締めて生きることの大切さを感じた人が多かったと思いますが、きっと日々の中でまた忘れていっていて、この4年という時間は結果的に、作品のメッセージをリマインドするいいタイミングになったのでは、とも思います。小学6年生が高校生になり、仕事に慣れた社会人も、別の道を選んだ人もいるでしょうし、ライフステージが変わったところで続編を読むと、また違う受け取り方になるかもしれない。
きくちゆうき:確かに、そう考えるといい期間だったのかもしれないですね。ラッキーでした(笑)。
ワニの勢いでそのまま描くより密度の高い作品になった
ーーきくちさん自身にとって、この4年はどんな期間でしたか。きくちゆうき:ワニの話で描いたように、“終わり”を意識しながら、という気持ちは変わりませんでしたが、環境は大きく変わって、仕事も私生活もいろいろあったなかで、そのなかでちゃんと生きていかなければ、という4年間でしたね。『100日後に死ぬ×(バッテン)ネズミ』も、もともと構想があった物語とはいえ、ワニの勢いでそのまま描くより密度の高い作品になったと思います。
ーー本作を描くにあたり、ネズミをはじめとするキャラクターたちとあらためて向き合ってみて、どんな感覚がありましたか。
きくちゆうき:もともとストーリーを考えて描いているというより、自分の知らないところで存在するキャラクターたちの過去と未来を「掘り出している」という感覚があって。読み返してみると、「よくこのエピソードが出てきたな」と思ったりもします(笑)。
ーー前作と合わせてざっくり200話。それでも4コマですから、描かれていないストーリーが膨大にあるということですね。
きくちゆうき:そうですね。これは描きたいけれど入れないほうがいいとか、描いちゃいけないなとか、そういう判断をすることも多かったです。ただ、本編では描かれていない経験が、キャラクターたちの言動に生きている部分はかなりあると思います。そういうところも想像して楽しんでいただけるといいなって。たとえばモグラは一見、そっけなく見えるけれど、彼もワニとの別れで泣いたでしょうし、漫画としては描かれていないところでの経験があり、ネズミとのコミュニケーションがあって、今のようなスタンスになっていたり。100話まで読んだあとに、もう一度読み返していただくと、本編では直接的に描かれていないそれぞれのキャラクターの思いや関係性に気づいていただけるかもしれません。
ーーそういう意味でも、単行本で読み直すのは作品のメッセージを捉え直すいい機会かもしれませんね。SNSで100日間追いかけるという体験と、単行本でまとめて味わうという体験には別の面白さがあると思いますが、きくちさん自身はどう捉えていますか。
きくちゆうき:単純に紙の本になるのはうれしいですし、「手に取って読む」というのはとても意味のあることだと思っています。SNSはリアルタイムでみんなで楽しめるのがいいし、本は一人でじっくり向き合えるのがいい。両方いいところがありますね。リアルタイムで追いかけてくださった方も、ぜひあらためて本で読んでみてほしいと思います。
ーー「センパイとワニ『17日間の恋人』」が掲載されているのも、追いかけてきたファンにとっては嬉しいですね。心に空いた穴が埋まるような、逆に広がるような、本書を締めくくるに相応しい、切なくも素敵なエピソードでした。
きくちゆうき:ありがとうございます。「その後」をしっかり描くこともできたのですが、センパイとワニの当時の話をきちんと描いてよかったなと思います。