二次元キャラとライブエンタメの融合はどこまで進む? 小説版『GETUP! GETLIVE!』が示した可能性

『ゲラゲラ』から考察する声優カルチャー

 文芸書の表紙が、ライトノベルのようなアニメ風のキャラクターが描かれているものになっていても、今はあまり驚かれないし忌避感も抱かれないが、文藝春秋から刊行された『GETUP!  GETLIVE!(ゲラゲラ)』の場合は、そこに書かれた「渡航」という作者名、そして「由良」というイラストレーター名に、逆にライトノベルのファンが驚きそう。

 渡航とは、小学館ガガガ文庫から出て、全世界で累計1000万部のベストセラーになったライトノベル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の作者。由良は、『絶対服従命令』『乙女的恋革命ラブレボ』といったゲーム作品にキャラクターを提供しているイラストレーター。『GETUP! GETLIVE!(ゲラゲラ)』の表紙に並ぶそんなふたりの名前と、描かれたイケメンの男子6人に、いったいどんな内容なんだと気になる「俺ガイル」ファンもいそうだ。

 いや、ファンなら渡航が挑んだ「GETUP!  GETLIVE!(ゲラゲラ)」というプロジェクトについて周知だったかもしれない。それは、人気の男性声優たちが、キャラクターとして描かれたお笑い芸人たちの声を演じ、漫才やコントを繰り広げるというもの。なおかつリアルでもライブを行って、舞台に立ちコンビで漫才を聞かせコントを見せ、そして間に繰り広げられるお笑い芸人たたちの日常を描いた劇も披露する。

 例えるなら、キャラクターのアイドルたちがアニメやゲームの中で歌い、その声を担当している声優たちがリアルなステージでも同じ衣装で歌い踊る『ラブライブ!』のお笑い版といったところ。この「GETUP! GETLIVE!(ゲラゲラ)」で世界観を設計し、キャラクターのドラマを描いたのが渡航。座付き作家ともいえる人間が、2019年5月19日に日本教育館一ツ橋ホールで開かれたた1stリーディングライブの模様を、完全ノベル化したのが本書となる。

 東京の神田神保町にある芸能学院スーパースタースクール(SSS)で、3組のコンビがお笑い芸人を目指してネタ作りや稽古に汗を流している。幼なじみの上原淳也(cv.花江夏樹)と東沢楓(cv.西山宏太朗)による「スターダスト」、穏やかな鬼畜という町田瀬那(cv.豊永利行)とつまらない芸人は絶対殺すと強気の大野虎之助(cv.石川界人)によるちぐはぐ凸凹コンビ「菊一文字」、そしてインテリ眼鏡の喜多見蓮(cv.阿座上洋平)と太鼓持ち気質の狛江一馬(cv.熊谷健太郎)によるイマドキ関東芸人「6―シックス―」。舞台では、声優が演じる6人が、手に台本を持って日常をどうやって過ごしているかをドラマ仕立てで演じ、そしてコンビでマイクの前に立って漫才やコントを見せる。

 漫才・コント構成は漫才コンビ・天津の向清太朗。お笑いのプロが作ったネタを声優のプロが、それぞれのキャラクターになりきって演じてみせたステージについては、日常のドラマ部分も含めてネットで公開されているので、気になる人はご覧あれ。アニメ版『鬼滅の刃』で主人公の竈門炭治郎を演じた花江夏樹や、「ハイキュー!!」シリーズで影山飛雄を演じる石川界人、ゲーム『新サクラ大戦』の花組隊長・神山誠十郎役に起用された阿座上洋平らがどうこなし、お笑い芸人ぶりを見せているかを知ることができる。

 刊行された小説版『GETUP! GETLIVE!(ゲラゲラ)』の中にも、台本が収録されているから声を想像して読むと面白い。ただ、そうだとしたら、『GETUP! GETLIVE!』は声優の名前からキャラクターの声が想像できる声優ファンだからこそ楽しめる小説なのか? それは違うと断言しよう。「お笑いにかけた青春」という帯にある言葉そのままに、この小説はお笑い芸人を目指す3組6人の青年たちが、いくつもの壁にぶつかりながら、それでもお笑いの世界で勝ち上がろうと挑み続ける、熱く激しい青春エンターテインメントなのだ。

 3組では先輩格で、出席の記名をホワイトボード半分に書いて自己主張する大野と冷静な町田のコンビ「菊一文字」ならではの、すべてをなぎ倒して進んでいこうとするアグレッシブさに触れて心強くなれる。大学に進学しながらも出会った狛江と「6―シックス―」を組み、SSSに飛び込んだ喜多見の心情に、このままで良いのだろうかと現状を迷っている気持ちを重ねてみるのも良いだろう。この喜多見が怪人を演じ、狛江がヒーローを演じてぶつかり合うコント「ヒーローと怪人」は、趣味にこだわるオタクの性格を見事にとらえた1本。さすが、大のアニメ好きで知られる天津向が書いただけのことはある。

 もっとも、舞台ではフラットだった3組6人の描かれ方が、小説版『GETUP! GETLIVE!(ゲラゲラ)』では、東沢と上原のスターダストにグッと寄せている印象を受ける。このコンビへの筆の入れ具合に、才能に迷い人生に悩み将来を悲観しながら、それでも現実を生きていかなくてはならないこの世界のすべての若者たち、あるいはすべての人たちに頑張れ、立ち上がれ、精一杯にやれと作者がエールを贈ろうとしたのかもしれないと思えてくる。

 自分の芸に自信がなく、ネタ見せのライブで批判されるのが怖いと出演を渋る東沢は、そんな自分の人生に上原を巻き込んでしまったことに負い目を感じている。上原の方がネタ作りもうまく、舞台でも噛んだりネタを忘れたりするような失敗をしない。才能ある上原を、このまま自分の隣で腐らせていいのかと悩む東沢に、失敗し続けている人生の持ち主ならば共感できる。共感しすぎて吐きそうになる。けれども、上原は自分を信じてくれている。面白いと思ってくれている。だったら……。

 そこで、ちょっとだけ見えた変化の兆しをとらえ、自分が自分として生きていくための糧にしたい。そう思える「スターダスト」のエピソードだっただけに、実際のライブで挑んだネタ見せバトルで、もしも「スターダスト」が優勝していたらどうなっていたかが気になった人もいそう。その答えが、小説版『GETUP! GETLIVE!(ゲラゲラ)』にはしっかり収録されている。今はその時間線で伸びていったお笑いの世界で、「スターダスト」がどれだけの成功を得るかを読んでみたい気がしている。

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