東大卒業後、無職と離婚を経て東洋哲学に開眼……しんめいPが憧れる、陽キャとしての空海

しんめいPが語る、東洋哲学の魅力

空海は一周まわって陽キャ

ーー本書は東洋哲学について書いたブログが編集者の目にとまって執筆することになったそうでした。ブッダ、老子、荘子、親鸞、空海などを各章で紹介していますが、しんめいPさんが特にお好きな人物はいますか。

しんめいP:みんな同じぐらい好きですね。8人のお子さんがいらっしゃるビッグダディは「子どもは全員平等に好き」と言っているみたいですけど。でもやはり自分の生まれ育った環境もあって、空海にはある種、特別な感情を抱いています。だから最終章で扱うなど、やや特別扱いしたのかもしれません。

ーー空海はどういう人物だったんでしょう。

しんめいP:空海は一番無職っぽくない人なんですよね。地元の香川にダムを作るような社会事業までしていました。社会においてめちゃくちゃ精力的に活動していた。つまり、陽キャですね。基本的には東洋哲学の思想家たちは陰キャなんですけど、空海は一周まわって陽キャなんですよ。僕自身が陽キャになれないので、憧れるところがあります。

ーー空海の思想は密教と呼ばれるものだそうです。

しんめいP:仏教はお釈迦さん(ブッダ)の時代に始まり、その後に弟子たちがその「無我」という教えを、超複雑にまとめていった時代がありました。弟子たちは分裂してしまって、その解釈で大論争に発展します。そこで龍樹という天才が出てきて、仏教の考え方を「空」という思想にまとめることになります。そのおかげで仏教がシンプルになって、多くの人に受け入れられる「大乗仏教」が広がっていきますが、これは「仏教シーズン2」みたいな感じですね。密教はそのシーズン2の最後のほうで登場します。果物でいうと、熟しきって腐りかけているような状態です。

 仏教、たとえば禅は、無の心によって、現実世界においてどんどん引き算をしていく。言葉をどんどんなくしていって、最後に見えた景色を見ようとするわけです。でも空海はそれを突き詰め過ぎたゆえに、もう逆に押さえ込んでいた怒りや性欲の存在さえ肯定するところに反転してしまう。まるで死の直前のような状態ですが、よく言うならば仏教の最終形態が密教なのだと思います。

ーーどのような考え方なのでしょう。

しんめいP:それまでの仏教の修行、つまり悟るための方法論を覆してしまうようなものでした。即身成仏といって、自分自身を身(体)、口(言葉)、意(心)の三密において、大日如来(ブッダの究極の悟りの状態)と一致させようとするんです。同じポーズをして、密教の真言呪文を唱えることで心を一致させようとする。

 正直、僕は最初に本で読んでも全然ピンときませんでした。でもこれはハリー・ポッターになりきる子どもみたいなものなんだと思ったんです。USJのハリー・ポッターのアトラクションに行った時に、子どもたちが衣装を着て呪文を唱えているのを見たんですね。あのテンションでブッダになろうとすることなんだと思いました。

 しかしこれはかなり陽キャな発想だと思いました。僕はどちらかというと陰キャなので、批判的思考をしたくなります。「それでブッダになれたら、苦労しないでしょ」と突っ込みたくなるところもある。でも本気で実践してみると、そんな小賢しい論理を超えていくようなところがありました。密教に関しては本を読むだけではわからないように感じたので、偶然出会った真言宗のお坊さんを頼って実際に護摩や山登りの修行を体験させてもらったんです。そうしたお坊さんのコミュニティの中で実践すると、なんとなくわかってくるようなところがありました。

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