川﨑宗則が共鳴した、吉田松陰の力強い言葉 45万部突破のロングセラー『覚悟の磨き方』を読む

川﨑宗則が共鳴した吉田松陰の言葉
池田貴将『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』(サンクチュアリ出版)

 一流のアスリート、俳優、経営者らから愛される、45万部突破のロングセラー『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』(サンクチュアリ出版)。幕末を苛烈に生きた思想家・吉田松陰の言葉を選りすぐり、現代人向けにわかりやすくまとめた一冊だ。彼の力強い言葉は時代を超えて現代人に大きな影響を与えている。

 プロ野球選手の川﨑宗則氏(栃木ゴールデンブレーブス)は、本書はアスリートに「ぜひ試合前に読んでほしい」とし、それだけでなく一般読者に対しても、心に「共鳴」を引き起こす名著だと推薦する。150年以上前を生きた吉田松陰の言葉がいまもなお人々に力を与えているのはなぜなのだろう。全力のプレーとユニークな存在感で世界中に多くのファンを抱え、42歳の現在も現役のアスリートとして活躍する川﨑氏に、その魅力を存分に語ってもらった。

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必要な知識は、行動を積み重ねるうちに身に付く

ーー川﨑さんは鹿児島県、つまり薩摩藩のご出身なので、もしかすると長州藩出身の吉田松陰にはご縁がなかったかもしれません。本書を読んだ感想を教えてください。

川﨑:吉田松陰さん、ばっちり初対面でした(笑)。この本のタイトルと表紙を見ると、ページをめくるのに“覚悟”が必要な重みがありますが、実際に読んでみるとすごく気持ちがよくて勇気づけられる本でした。見栄も肩肘も張らずに、いい意味で力が抜けていますよね。

ーー本書は現代風に読みやすく編集されています。特に気になった言葉はありますか。

川﨑:42番の「迷わない生き方」はよかったです。「最もつまらないと思うのは人との約束を破る人ではなく、自分との約束を破る人」。本当にその通りですよね。43番の「自分にしか守れないもの」も刺さります。法を破ったら罪を償えるけれど、自分の美学を破ると償えない。社会的に罰されることはないんだけれど、自分の中では何かが崩れてしまって、それが深刻なダメージになってしまうことはありますよね。

 他には28番の「やればわかる」は特に気持ちがよかった。自分に必要な知識は、行動を積み重ねるうちに身に付くんです。僕がメジャーリーグに行った時も英語は全然喋れなかったし、アメリカ流の技術は全然身についていなかった。それでも毎日現場にいて、話をしながら学んでいきました。毎日、朝食を食べにみんなのところに行って、英語で会話してみる。まるでティッシュ1枚を積み重ねていくようなものでしたが、塵も積もれば山となる。段々と話せるようになりました。

ーーただ頭で考えるのではなく、現場に身を置いて実践する。解説者としての仕事も多いなかで、川﨑さんが現役でプレーを続けている理由のひとつですね。

川﨑:僕はいつも「匂いを嗅げ」と言います。嗅覚なんですよ。現場で目で見ること、耳で聴くことも大事ですが、特に匂いを感じてほしい。その匂いこそが脳味噌にパンチする。匂いは脳と直結していて、強烈に覚えていくんです。

ーー川﨑さんは選手であると同時にチームのテクニカルアドバイザーであり、人を導く立場でもあります。本書にはリーダーシップに関する名言も多いですが、何か感じるものはありましたか。

川﨑:今のところ監督やコーチになろうという気持ちはないのですが、頷くところばかりでしたね。たとえば、76番の「使える部下がいないという勘違い」は本当にそう。才能のある部下がいないのではなく、部下の才能を引き出せる人物がその場にいないのだと。少なくとも、指導する立場の人はそう考えるべきだし、イチローさんや翔平さんだって、その能力を正しく引き出してくれる指導者がいなければ、凡庸な選手になってしまっていたかもしれません。

自分の頭でしっかり考えた上でチャレンジし、失敗をするべき

ーーさて、吉田松陰は欧米列強に対して日本はどうあるべきかと、命をかけて考えていた人でした。川﨑さんは日本代表、メジャーリーグなど海外での経験が豊富ですが、日本人であることを意識することも多かったでしょうか。

川﨑:海外に行って初めて、日本の素晴らしさが見えてきたところがあります。日本人はルールをしっかりと守る。人と接する時は相手に対するリスペクトがある。礼に始まり礼に終わる。そういう日本人ならではの作法は本当に素晴らしいところです。

ーー最近は野球でもサッカーでも、世界で日本人アスリートが活躍していますね。

川﨑:野球では大谷翔平さんが世界を圧倒しているでしょう。翔平さんの凄さは日本人的な細やかさなんです。その上でアメリカ人が得意なパワーにおいても勝っているから、球団は彼にアメリカ人トッププレーヤー以上の年俸を払うんですよ。

ーー川﨑さんはイチローさんとも深い親交があります。ストイックなイメージや美学を貫く姿勢に、吉田松陰に繋がるところがありそうです。

川﨑:翔平さんが天使ならば、イチローさんは鬼かな。イチローさんは世界に対して、日本の野球の技術で勝負しました。侍スピリットで先陣を切ってくれた。ホームランバッター全盛の中で、日本人の細やかでスピーディーな野球を貫いた。10年連続で200本安打、MLBオールスターに10年連続出場という活躍で、米国野球殿堂入りは間違いありません。特にアメリカでは数値が重視され、長距離ヒッターが高く評価されますが、野球は陸上競技のように数値で明確に優劣が決まるスポーツではなく、イチローさんはアメリカ人とは全く違うやり方で大きな衝撃を与えたんです。

 イチローさんは明治維新の頃のラスト侍のようです。最後まで侍として刀を持っていて、銃に切り替えないわけです。普通はそこで撃たれて負けてしまう。でもイチローさんは、刀で銃を切り落とすような芸当をやっていた。僕はそんな彼が大好きだったし、彼を追いかけてアメリカに行きました。考えてみると、吉田松陰さんはイチローさんのようですね。でも、翔平さんも吉田松陰さんのようだなと思います。吉田松陰さんは、いろいろな側面を持っているんでしょうね。

ーーイチローさんや大谷翔平さんなど、一流のアスリートには共通点があるものでしょうか。

川﨑:頑固で強靭だけれど、しなやかで柔らかい。そして、周りにどこか「大丈夫かな」と思わせるような隙を持っているのも共通点だと思います。イチローさんはWBCの時は鬼になりますが、プライベートでは全然そういう感じじゃないんです。毎日のように同じ食事を食べているし、お酒は365日飲んでいる(笑)。そういうところが人間らしくて、人から愛される理由だと思います。競技のなかでもたくさん失敗して、多くの批判にさらされたりしながら、それでも曲がらずに成長してきた人たちだと思います。

ーー川﨑さんが「ミスをしないことが成功じゃない」と常々おっしゃっていることを思い出しました。

川﨑:この本にも75番「ミスを認め、失敗を責める」のなかに、「失敗しないことは、自慢になりません。なにも失敗していないということは、なにもやっていないということだからです」という言葉がありますね。僕の息子たちも野球をやっているんですが、たくさんのミスをするようにといつも言っています。それが少年野球·学生野球でできることなんです。プロになってお金をもらうようになると責任が生まれる。スポンサーがいる中、チームは勝たないといけない。「ミスをどんどんしよう」などと安易に言えません。

 一方、学生野球は自分でお金を払って野球をやっていますからね。強いて言えば、スポンサーは親でしょう。僕は息子のスポンサーだから言うんだけど、今のうちにどんどん失敗したほうがいい。そこでは人に言われた通りのことをやって失敗するのではなく、自分の頭でしっかり考えた上でチャレンジし、失敗をするべきです。そういう失敗だったら、スポンサーの僕は喜びます(笑)。

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