料理研究家リュウジ × 味の素スタッフ『虚無レシピ』鼎談 「手間をかけた料理があるなら、雑でうまいもんがあってもいい」
それが、気だるさMAXで登場する「虚無おじさん」だ。ヘアセットもされていない、いわばオフモード状態で紹介する“虚無レシピ”は、「いかに少ない材料と手間でうまいものを作るか」を極限まで突き詰めたもの。
そんな料理のハードルをグッと下げ、幸福度をグンと上げてくれるレシピを集めた料理本『虚無レシピ』(サンクチュアリ出版)が9月7日に発売され、全国の書店から初版5万部の注文が殺到、発売2ヶ月で3刷7万5000部を突破する話題作となっている。
今回は、料理の味を決めるアイテムとして虚無レシピに数多く登場するうま味調味料「味の素®」に注目。味の素株式会社・調味料事業部の鈴木明日香さん、鈴村萌花さんをゲストに招き、スペシャル鼎談として『虚無レシピ』への思い、そして「味の素®」のさらなる活用法などを聞いた。(佐藤結衣)
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「パックご飯の上になんか乗っけただけのものも“料理”でいいじゃない」
――リュウジさん、鈴木さん、鈴村さん、本日はよろしくお願いします。
リュウジ:……はい。どうも。虚無おじさんです。
一同:(笑)。
リュウジ:今日も朝まで飲んじゃってて。水飲みながらでいいっすか。
――まさに動画で見てきた虚無っぷりですね(笑)。では、まずどのような経緯でこの『虚無レシピ』が本になったのか教えてください。
リュウジ:これは俺の発案ですね。レシピ本って、一般的には出版社から「こういう本をやりませんか?」って言われるんですけど、この『虚無レシピ』に関しては俺がサンクチュアリ出版さんに「これ、本にしますから! 絶対売れるからやったほうがいい」って連絡しました。そしたら「是非やらせていただきます」と。
――実際に、すごい人気ですね。
リュウジ:この本が売れるのは当たり前っちゃ当たり前なんですよ。なぜなら、俺はニーズのあることしかやらないから。そもそも今、毎日料理をする人って僕の見立てでは10人に1〜2人ぐらいしかいないと思っていて。「たまに料理します」っていう人が3人ぐらい。あとの5人は全くしていない。だから、俺が料理研究家としてまず考えているのは、この人たちにどう料理をさせるか。その最短距離を進むことしか考えてないといってもいいくらい。
――なるほど。虚無レシピはリュウジさんのレシピの中でもダントツで「やってみよう」と思わせてくれます。
リュウジ:「虚無」ってワードをつけたのも、どうしたらその料理をしない人たちの興味を持たせられるかを考えてのことだからね。例えば、オムライスのレシピなんてネット上には何万とあるわけじゃないですか。そのなかで「これならやってみようか」と思わせるためには、やっぱりイメージが膨らむワードがないと。よく俺は「悪魔の〇〇」とか「無限〇〇」みたいな言葉を使うのも、そういう理由からなんですよね。だって酒を飲みすぎたり、疲れて今日は何も頑張れないっていう日は誰にでもあるじゃない。そんな日だって、みんなうまいもん食いたいでしょ。そのニーズがあって、俺の料理がある。だから、売れるのは当たり前なんですよ。
――たしかに、そのニーズは普遍的ですね。鈴木さん、鈴村さんは虚無レシピについてはどのような印象をお持ちですか?
鈴木:本当に虚無レシピに助けられています。普段から料理はわりとする方ですが、それでも仕事と育児をしながら家事も……ってなると、やっぱり「今日は料理したくないな」っていう日もあって。そういうときに虚無レシピはすごくありがたいです。
鈴村:私も日常的に虚無レシピを活用しています。今、一人暮らしをしているんですけど、仕事で疲れて帰ってきたあとに、自分のためにちゃんとご飯を作るってなかなかモチベーションが上がらなくて。もうフライパンを出すのも億劫なくらい「疲れた!」っていうときでも、虚無レシピならやろうかなって思えます。
――おふたりは、この『虚無レシピ』本のなかで、どのレシピがお気に入りですか?
鈴木:リュウジさんがお母様から教わったという「虚無ご飯」です。
リュウジ:ご飯に「味の素®」とバターと醤油、かつおぶしをかけるだけのレシピね。「レシピって言えるか?」くらいの。
鈴木:でも、それだけシンプルな工程なのに食べたときの味についてはもちろんですが、すごく疲れている中でひと工夫したという2つの満足感があるんです。
鈴村:私は「虚無明太パスタ」ですね。リュウジ:昔流行った『スパ王』の再現のやつね。
鈴村:はい。リュウジさんのパスタ系虚無レシピは、ワンパン(フライパンひとつ)も大好きですが、「虚無明太パスタ」はレンジでチンするタイプなので本当に簡単で。手間的にはもうレトルトと変わらないくらいラクなのに、“自分で料理した”感があるのがありがたいです。
リュウジ:うん。俺はね、今回の『虚無レシピ』を出したことって社会的にもすごく意味があると思っている。それは、なにかっていうとパックごはんの上になんかをのっけただけのものを、プロの料理研究家が「料理です」と言って出したところ。どうもね、昔から料理って厳しいんですよ。やれ「こうしなきゃダメだ」とか、「ああしなきゃ美味しくならない」だのって、全然やさしくない。でもさ、そういう手間をかけた料理があるなら、雑でうまいもんがあってもいいじゃない。「料理」って、もっと許されていいものだと思うんだよね。