出版業界における「本屋大賞」の意義とは? 宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』受賞から考える

出版業界における「本屋大賞」の意義とは?

 ボーイズラブと呼ばれるカテゴリーで活躍していた凪良ゆうも、初めて単行本として刊行した文芸作品『流浪の月』が「2020本屋大賞」を受賞して、広く存在が世に知られた。続く『滅びの前のシャングリラ』も「2021年本屋大賞」にノミネートされ、『汝、星のごとく』は直木賞候補となって「2023年本屋大賞」で2度目の受賞を果たすほどの人気作家になる。

 「2024本屋大賞」にも『星を編む』が入って、書店員の支持の高さを見せてくれた。こうなると、次の凪良ゆうを取り上げて世の中に知らしめた方が良いのでは、その方が書店員の目利きぶりを見せられるのではといった声も聞こえてきそうだ。もっとも、2004年に本屋大賞が始まった時よりさらに人の興味の細分化が進み、よほどのヒット作でなければ誰もが知っている状況にはならなくなっている現代。4度のノミネートと2度の受賞でようやく一般化が果たされたと言えなくもない。推し続けるのも立派な愛の形なのだ。

 だから、宮島未奈も続く『成瀬は信じた道をいく』が2年連続で本屋大賞を受賞して、ようやく世間が知る作家になるのかもしれない。その前に、映画化なりアニメ化されて大ヒットして、一気に知名度を高める可能性もある。傍若無人な成瀬の振る舞いは、ライトノベルのヒット作でアニメも人気の谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』の主人公、涼宮ハルヒの通じるところがあって、キャラクター人気も出そうだ。

 だったら、「涼宮ハルヒ」の新作が出たら本屋大賞を受賞するのかというと、過去にラノベのレーベルから刊行された本がノミネートされたことは、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 -栞子さんと奇妙な客人たち』くらいしかない。判型を問わずオリジナルの小説ならエントリー可能な賞であるにも関わらず、ラノベはどこか避けられているような雰囲気がある。

 ラノベレーベルのスニーカー文庫から2023年10月に出た駄犬『誰が勇者を殺したか』のあとがきには、「本屋大賞が欲しい」という願望が吐露されつつ、「ライトノベルと呼ばれるジャンルですし、ほとんど不可能でしょうね」「ライトノベルってジャンルなだけで俎上にすら載らない気がするのですよね」と書かれて、疎外されている認識を漂わせている。

 『ビブリア古書堂』がノミネートされたことがある以上、最初から除外されているわけではないことは分かる。「2024年本屋大賞」には知念実希人の『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』がノミネートされて、児童文学でも推してもらえることが示された。川上未映子や小川哲といった芥川賞直木賞の大看板を持つ作家と並んでの登場は、本屋大賞に本の多様性を尊ぶ意識がしっかり存在していることを表している。

 売れている本をもっと売って盛り上がりたいという意識もあって良いし、知る人ぞ知る本を世の中に知ってもらいたいという意識があっても良い。そうした多様な考え方は、受賞作という1点だけを見ていては分からない。ノミネートされた作品も、それ以前の一次投票に挙がった作品も含めて書店員の思いだと感じてもらうこと。そうした思いをくるんだものが本屋大賞なのだと受け取ってもらえるようにすること。それによって、出版社が強烈にプッシュした作品が受賞する賞、人気作家に権威を与える普通の文学賞になってしまったという「本屋大賞」への異論を鎮め、書店員も読者も作者も誰もが幸せな気持ちで盛り上がれる賞になるだろう。

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