凪良ゆう × THE RAMPAGE 岩谷翔吾トークイベントレポ 「小説を書いていると無駄なことはひとつもないと思える」

凪良ゆう × 岩谷翔吾トークイベントレポ

 凪良ゆうが3月14日、紀伊国屋ホールでの『ニューワールド 凪良ゆうの世界』刊行記念トークイベントを行い、ゲストにTHE RAMPAGEの岩谷翔吾が登壇した。

 本イベントは、対談やコミカライズ、全作品インタビューなどが掲載されたファンブック『ニューワールド 凪良ゆうの世界』の刊行を記念して開催。第1部は事前に公募した質問への返答、第2部は現在ブックレビュー小説『君と、読みたい本がある』を連載中で、凪良のファンでもある岩谷との対談という構成だ。その内容を以下にレポートする。

読者からのディープな質問に回答

左、凪良ゆう。右、岩谷翔吾。

 第一部では、凪良がファンから寄せられた質問に回答した。最初の質問は、他の作家に対して「どうやって思い付いたんだろう?」と感心した作品について。凪良は、自身も小説の熱心な読者であることから「たくさんある」としつつ、直木賞作家・小川哲がマジックリアリズムの手法を用いながらポル・ポト時代のカンボジアを描いた『ゲームの王国』などを挙げて返答。以降、「本音と建て前をどう使い分けるか?」や「他人と自分を比較してしまう。どう折り合いをつけるか?」、「友達は必要か?」などのディープな質問に、ユーモアを交えつつ返答していった。

「夢を追っている時に心が折れたことはありますか?」という質問には、「心が折れたことは何度もあるし、今もある。でも諦めたことはないですね」とアンサー。編集者から原稿の修正を求められ、反論したものの自分が誤っていたと気づいた時や、作品が酷評された時は精神的に堪えるものがあるとのことだ。そんな時は、あまり深く考えずに鑑賞できるYouTubeの「ゆっくり実況」や「ちいかわ」を観ているという。

 作品に関する質問では『美しい彼』について聞きたい、という読者の声が多かった。今後の展開について、主人公たちが学生から大人になる転機となることから「悩みの展開になると思います」と匂わせる。また「ドラマになってたくさんの人に届いたなと思います。BL好きな方だけでなく、俳優さんのファンとか広がった」と、原作者の視点から作品の広がりについて語った。

岩谷翔吾とのトークセッション


 第2部では、THE RAMPAGEの岩谷が登壇。岩谷は、4月から始まる「THE RAMPAGE LIVE TOUR 2024 "CyberHelix" RX-16」のリハーサルから駆け付けたという。『流浪の月』を入口に『滅びの前のシャングリラ』以降の凪良の作品をチェックしている岩谷は、自身も小説を執筆している。そのためトークは、自然と創作に関するものに。

 凪良の「仕事から帰った後に小説を描くそうですが、相反する行為をどうやって共存させているのですか?」という問いに、岩谷は「多くのスタッフの努力によって作り上げられた『THE RAMPAGEの岩谷』という存在に、普段の自分が勝てないので、そのギャップを埋めるのが執筆なのかもしれません」と自己分析。凪良もイベントなどの公の自分に対してギャップがあるそうで、「実像との距離感を感じて、帰宅した後に孤独になる」という。

 岩谷が筆を取ったきっかけは、コロナ禍のステイホームである。「ボーカルだったら歌詞がありますけど、パフォーマーだから言葉に憧れて、自分の人生を一度描いてみようと思ったんです」と語り、実際に書いてみたところ、自分の人生を肯定できるようになった。これには凪良も「小説を描いていると無駄なことはひとつもないと思える。全部ネタにできるかもしれない。少々しんどいことがあっても経験だから」と共感を示した。

 岩谷が処女作を最後まで書き上げ、エンドマークを置いたというエピソードに、凪良は驚いた。多くの人にとって「小説を最後まで描き切る」ということは難しく、凪良自身も『滅びの前のシャングリラ』のラスト3ページを2カ月描くことができなかったという。完成した時は安堵のあまり、思わず涙をこぼしたそうだ。

 対談のハイライトは「表現は上手いから届くというものではない」という話題。岩谷は拙いと思っていた習作を凪良に読んでもらったところ、「心の部分が表れている」という感想を聞き、「命を燃やしたダンスの方が(技術的に優れた)カッコいいものを超える瞬間がある」と感じたという。小説現代長編新人賞を務める凪良も「上手くなくても突き刺さる時がある」と賛同する。


 司会を務めていた凪良の担当編集者は文章技術と物語の内容のどちらを重視するかを問われ、「文章が下手でも構成が面白ければ、文章はこちらで直せるので物にできる。逆だと構成をこちらから強くは提案できないし、そこに手を加えたら誰の作品かわからなくなる」とコメント。しかし、文章を直す技術がある編集者自身は「一度も作品を描こうと思ったことがない」らしい。文章テクニックの有無よりもまず「小説を描く」と決断すること自体に、畏敬の念を抱くそうだ。

 そして、気になる原稿の締切問題に触れる場面も。「今のところは守ります。量も少ないですし」と答える岩谷に対し、小説の先輩である凪良は「でも、そのうち破るようになりますよ」と予告。さらに「『滅びの前のシャングリラ』で初めて期日を過ぎてしまってから、1つも守れなくなりました。締切よりも質を優先して」と重ねて、会場の笑いを誘った。

 多岐に渡ったトークセッションは、あっという間に約2時間が経過。最後に岩谷は「本に救われて今があるので、自分を通じて本を好きになってくれたら。凪良さんのファンの方々も温かい目で見守ってください」、凪良は「皆さんと一緒に過ごすことができて嬉しいです。岩谷さんもツアー準備の忙しい時でしたが、楽しくお話してくれて本当にありがとうございました」とそれぞれ挨拶し、イベントは幕を閉じた。

■書籍情報
『ニューワールド 凪良ゆうの世界』
著者:凪良ゆう
価格:1,650円
発売日:2024年2月21日
出版社:中央公論新社

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