杉江松恋の新鋭作家ハンティング 限りない不安を催す重量級ホラー小説『対怪異アンドロイド開発研究室』

『対怪異アンドロイド開発研究室』評

 2024年はおそらく、ホラーというジャンルが大きく注目される年になるはずである。すでに前年からその傾向はあったが、2024年が節目になるのではないか。本作を読んで、改めてその意を新たにした。

 恐怖小説と官能小説はあらゆるジャンルの中で最も書くのが難しい。そう言ったのは柴田錬三郎だったか、他の作家だったか。もしかするとチャンバラ小説を含めて三ジャンルだったかもしれない。共通点は、論理だけでは書けない小説であるということだ。プロットを論理的に組み立てていくだけでは足りず、そこに読者の五感を刺激する要素がなければいけない。ホラーにもさまざまな種類があり、いわゆるショッカー、つまり受け手に直接的な刺激を与えるものだけが使われるわけではない。小説の内容によっては、いったん文章の形で情報を受け止めさせておいて、それが咀嚼されると恐怖が醸成されるという想像力に訴える技巧も必要だろう。『対怪異アンドロイド開発研究室』は、小説の表面で起きている出来事の下に理知的な思考を招き寄せる穴が広がっており、そこに下りていくと限りない不安を催すことになる、という形式の小説である。こうした凝った構造の小説を読むと、恐怖小説の鉱脈はまだまだ彫り尽くされずに残っている、と嬉しい気持ちになる。

 本作は第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞受賞作で、作者の饗庭淵はゲームクリエイター、この前に『黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない』というオリジナルゲームと、そのノヴェライゼーション(KADOKAWA)があるというが私は未見である。アリサの物語はまだ続きがありそうな終わり方をしており、期待もできる。どうか、懐疑の淵を潜り続け、その底を私に見せてもらえないものだろうか。

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