連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2023年12月のベスト国内ミステリ小説

2023年12月のベスト国内ミステリ小説

 今のミステリー界は幹線道路沿いのメガ・ドンキ並みになんでもあり。そこで最先端の情報を提供するためのレビューを毎月ご用意しました。

 事前打ち合わせなし、前月に出た新刊(奥付準拠)を一人一冊ずつ挙げて書評するという方式はあの「七福神の今月の一冊」(翻訳ミステリー大賞シンジケート)と一緒。原稿の掲載が到着順というのも同じです。今回は12月刊の作品から。

若林踏の一冊:紺野天龍『ソードアート・オンラインオルタナティブ ミステリ・ラビリンス 迷宮館の殺人』(電撃文庫)

 仮想空間でのデスゲームを描く〈ソードアート・オンライン〉シリーズのスピンオフだが、中身は極めて正攻法の謎解き小説である。オンライン空間にあるダンジョンで起こった不可解な事件の記録を読み解く物語で、正編で描かれるVR世界の設定を使い倒して独創的なトリックや仕掛けを幾つも生み出している点が素晴らしい。シリーズの設定に関する重要事項は手際良く説明されており、推理に必要な手掛かりもフェアプレイに則って提示されるので、今まで〈ソードアート・オンライン〉を読んだ事が無い人でも安心して謎解きを楽しむ事が出来る。

野村ななみの一冊:荻堂顕『不夜島(ナイトランド)』(祥伝社)

 ハードボイルド×サイバーパンク×SFの、二段組大長編である。戦後米軍占領下の琉球・与那国島。ネオン煌めく欲望の街「不夜島」は密貿易で栄えていた。主人公は「ほんの一瞬だけなら何でも手に入れられる」密貿易の仲介人。何やら事情を抱える彼は、警官から殺人鬼の捜索を、謎の女性から〝含光〟なる品物の入手を依頼され奔走する。やがて巨大な陰謀が彼や仲間を巻き込んで動き始めるのだが、それぞれの場所でそれぞれに抗う登場人物たちの生き様に胸が熱くなる。『攻殻機動隊』や『BLACK LAGOON』などが好きな方には、特にお勧めの一編。

橋本輝幸の一冊:真門浩平『バイバイ、サンタクロース~麻坂家の双子探偵~』(光文社)

 新人作家の初の著書。名門小学校に通う双子が謎を解決していく連作短編集だ。推理のどんでん返しが豊富で、事件の全貌が徐々に明かされるのも小気味良い。どの話もひねってある一方、短くまとまり、それぞれに印象的である。

 あえて言えば、人死にが起こらない事件はいずれも納得感が高く後味も良いのだが、シリアスな話ではリアリティの違和感が強くなる。しかしこの作者ならそのうち、勢いを殺さずうまく調理する方法を見つけるのではないか。今後にもも楽しんでミステリ創作を追求してくれるだろう、創意工夫と試行錯誤の精神を感じた。

千街晶之の一冊:逸木裕『四重奏』(光文社)

 同じチェリストだった由佳の変死の真相を探るべく、彼女が傾倒していた天才演奏家・鵜崎に接近しようとする主人公・英紀。しかし、鵜崎の不遜とすら思える指導方針に触れるうちに、英紀は演奏に関する自らの価値観を土台から揺さぶられることに……。模倣とオリジナリティ、客観とバイアスをめぐって登場人物たちが繰り広げる火花が散るような議論は、決してクラシック音楽の世界にとどまるものではなく、どんな分野にも降りかかってくるものだろう。静謐な中にも不穏な緊張感が途切れることのない、鋭利な刃のようなサスペンス小説だ。

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