流行りのフードデリバリー業界にも幽霊は出る? 「業界怪談」が伝えるプロの仕事の流儀

「業界怪談」が伝える仕事の流儀

 「業界の怖い話」なんて聞くと、労働環境の悪さにまつわる話を思い浮かべる人も多いはず。ところが幽霊の出てくる類の怖い話というのも、実は少なくないらしい。業界内でしか知られていない不可思議な出来事を再現ドラマ化した、NHKの人気番組「業界怪談 中の人だけ知っている」(2020年より不定期放送)。その書籍版である10月6日に発売された同タイトルの本書(NHK出版)は、話の当事者に追加取材を行い、小説家の橘ももが執筆を担当。再現ドラマをもとに8つの業界の怪談を小説化した、全16篇からなるホラー作品集だ。

 大規模な都市開発の現場。そこでは幽霊が出ると、作業員たちの間で噂になっていた。ある日新人の〈俺〉は、一人で地下の仮設ゴミ捨て場へゴミ出しに向かう。すると、何かにくすぐられるような気配を感じ、耳鳴りもしてくる。〈振り向いてはいけない〉。そう思いつつも振り向いてしまったその時……。〈――あいつだ〉。白い服を着た長い黒髪の女から、必死に逃げる〈俺〉。〈カラカラカラカラ……〉。どれだけ急いでも女との距離は離れない。〈カラカラカラ……カラカラカラカラ…〉。この辺りは神社の建っていた場所のはず。なぜそこに、病院の跡地にでもいそうな点滴のスタンドを持つ幽霊が現れたのか?

 広大な土地に以前何が建っていたかなんて誰にも把握できやしないのだ、そんな先輩の話を〈俺〉は思いだす。〈空襲で、震災で、あたりは焼け落ちてすべての痕跡を消してしまった。東京はどこもかしこも掘れば骨の出る可能性がある土地ばかり。その上にいまを生きる人間たちは新たな建物をうちたてる。何も知らずに、あたりまえのような顔をして、自分たちの暮らしをただ豊かにするためだけに――〉。

 単に仕事場に幽霊が出たというだけではない。このように話のディテールにその業界の特徴や現状を読み取ることのできるのが、業界怪談の魅力なのである。

 病院の地下の霊安室。葬儀業者の〈私〉は死者に感情移入しすぎて気持ちが擦り切れないよう、〈ご遺体との適度な距離感〉を探りながら業務を遂行してきた。ところが……。〈すうう…はああ……すうう……はああ〉。遺体から漏れる息。生きている人間として扱い、親身になって助けを求めるべきか。あくまで死者として扱い、自分の仕事に徹するべきか。異様な状況下で、遺体との距離の取り方について〈私〉は判断を迫られる。

 近年急成長したフードデリバリー業界。配達員は馴染みのない場所にも商品を届ける職業柄、異界のような空間に迷い込んで幽霊と遭遇することもある。タクシー業界に目を向けると、幽霊も配車アプリでタクシーを呼ぶのが今っぽい。

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