『光が死んだ夏』さらに磨かれた独創的ホラー表現 最新3巻の魅力を深掘り

『光が死んだ夏』のオノマトペ表現

 全国的な猛暑が話題を呼んだ今夏。8月も終わりを迎えたものの、まだまだこの暑さは続きそうだ。そんな夏の終わりに読みたい漫画と言えば、『ヤングエースUP』([KADOKAWA)にて連載中のモクモクれん『光が死んだ夏』だろう。

 『このマンガがすごい!2023』オトコ編では第1位を獲得し、『マンガ大賞2023』にもノミネートされた同作。とある集落で共に育ってきたよしきと光。ある夏の日、よしきは光が別のナニカにすり替わっていることに気が付いてしまう。光ではない別の“ヒカル”と共に過ごす選択をするよしきだったが、集落の人々は徐々に異変に気付き始める。本稿では第2巻、そして6月に刊行された第3巻を中心に本作の魅力を再考察してみたい。

 本作の軸であり、読者にとって最も印象に残るのはやはりホラー描写だろう。例えば第1話における光の顔が崩壊し、崩れ落ちた顔からこの世ならざる“ナニか”が溢れ出る描写は、読者をグッと惹きつけ、その後の人気を一気に後押しした。2巻ではそんな“ナニか”によしきが取り込まれてしまう描写も描かれる。果たしてヒカルの身体に秘められた“ナニか”の正体が明かされる日は来るのだろうか。

 直接的なホラー描写以外にも、全編を通してそこはかとなく、発せられている妙な空気感は、いわゆるJホラー的な演出を体現している。日本のどこかにある田舎の寂れた集落。狭いコミュニティ故の周辺住民との距離感や噂話。そして土着信仰を彷彿とさせるこの土地ならではのこの世にはいないはずの“ナニか”の存在と、それを知る何人かの住人達。2巻からは「田中」と呼ばれている事情を知る者が登場し、3巻ではいよいよ田中がよしきたちの暮らす集落に訪れる。果たして今後、田中とよしき、そしてヒカルが対峙する日はやってくるのだろうか。

 本作ではいわゆるオノマトペ、目で見る擬音が作品演出に巧みに作用している。象徴的なのは作品全編を通して「シャワシャワシャワシャワシャワ」という蝉の鳴き声がコマ割りの枠を超えて描かれる。その他にもあらゆる場面で意識的にオノマトペが描かれる。単なる文字の羅列ではなく、文字の描き方でその不穏さを醸し出す本作の演出は、今後の漫画作品に新しい風を吹かせるはずだ。そんなオノマトペ演出の最たるものは第3巻に収録の15話で描かれる、霊的な存在をオノマトペによって描写する場面だ。オノマトペにも関わらずはっきりと人の形をした霊的な存在を感じられる演出に驚いた読者も多いだろう。オノマトペが霊としてこちらに異様な速度で向かってくる描写は、シュールでありながらも思わずゾッとしてしまうような狂気に満ちている。本作を読む際にはぜひこのオノマトペ演出に注目してほしい。

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